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column

December 18, 2022

シャッター音を傍らに
scene36 【12月】晴れ音楽

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

朝日射す日向灘




【12
月】晴れ音楽


宮崎市から車で一時間ほど南に下ったところに油津という港町がある。
かつて寅さん映画のロケ地にもなった運河のある小さな町だ。

福岡から4時間以上かけてこの町にやってきたのは、日南海岸から昇る朝日を撮影するためだ。
この町のはずれにある高台の展望台からは沖合に浮かぶ大小の岩々が並び、冬になるとその岩場から朝日が顔を出す。
といってもそれまでその光景を見たことはなく、
おそらくいい構図で撮影できるのではと楽しい想像をしながらはるばるやってきたのだ。

夕方に到着し、とりあえず下見。
見えている港はいい夕焼けに包まれている。明日の天気予報も晴れだ。
想像していた通り展望台付近は南国の木々が茂り、その先に海に大小の岩々が見えている。
太陽の出る位置をアプリで確認して構図は決定。

もう撮ったような気分で海鮮丼を食べてホテルへ。



港が夕焼け空に包まれていた

油津の運河はクリスマスイルミネーション




そして次の日の朝、日の出前に再び展望台にやってきた。
そして東の空を見てみると、思いっきり雲が広がっている。
とても太陽がきれいに出てくる気配はない。

昨日見た天気予報は何だったんだ?

心の中で大きな悲鳴を上げ、気分は落ち込み途方に暮れてゆく。



夜明け前の東の空は曇りだ

 


もちろんこういう場面は何度となくあるけれど、
片道4時間以上かけてやってきて天気予報も万全でこれでは、やはり落ち込んでしまう。
そして僕の日ごろの行ないがよほど悪かったのだろうかとか、
展望台と海にキチンとあいさつしなかったからとか、昨日食べた海鮮丼のせいとか、
ラジオで流れたイモ欽トリオのせいとか、いろんなあるはずもない原因を考えてしまうのだった。
単に悪い癖なんだけど。

そしてとりあえず車に戻りボサノバを聴いた。小野リサだ。
この方の音楽を聴くとなぜか晴れる日が多いのだが、それはどうしてだろうと不思議に思うことがたびたびあった。
とびきりの晴れ女、いや晴れ音楽ということなのだろうか。
この時はもう晴れないだろうと思いながらも、たまたまCDがあったから3曲ほど聴いた。
心がいくぶん静まって落ち着いてくる。

そして再び展望台に戻ると、東の空に晴れ間が見え始めたのだった。
さっきまでのどんよりの空はどこに去ってしまったのか。もうすぐ太陽が顔を出しそうだ。



太陽が顔を出し始めた



これは僕の日ごろの行ないのせいか、はたまた海鮮丼のせいか、
はたまたイモ欽トリオのせいか、などと都合よく考えてしまう僕なのだが、
これはやはりさっき聴いた小野リサの音楽によってもたらされたお天気なのではと思ってしまう。

太陽が見えたのはほんの5分ほどだったけれど、再び助けられたなあと不思議に思いながら、
いつか小野リサに会ったら「いつも太陽をありがとう」とお礼をいいたい(会う事ないだろうけど)。

まあこれは時々当たるおなじないみたいなものだろうけれど、
そんなおまじないにとても喜んでいる僕。
ほんの少し前まですごく落ち込んでいたはずなんだけどなあ。

まったく面倒くさい性格だなあと思いながらも、
まあそれはそれでいいじゃないかと油津での朝日を撮影しながら、
ありがとうと様々な出来事に素直に感謝したのだった。



輝く海がまぶしい

 



●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →