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column

May 14, 2022

シャッター音を傍らに
scene29 【5月】 バラと緑と曇天の先に

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya


小高い丘の先に霧島連山




【5
月】バラと緑と曇天の先に


武雄市にある黒髪山の麓で日の出を迎えた。

緑の大地が彼方まで続き、陽の光が届くと暖かい緑に変化し始めた。
車のラジオからラジオ体操が始まったのでつい体が反応して体操を始めてしまったけれど、
もっとシャッターを切るべきだったかな。


黒髪山のすそ野から緑の大地が続く



続いて鹿児島へ。
一気に遠い。しかも鹿屋市という遠くのさらに向こうの町だ。

4時間ほどかけて九州道を南下。垂水市に宿泊し、翌朝「かのやばら園」へ。
この広大なバラ園が満開を迎えたということなので、ぜひ撮影しておこうと思っていたのだ。

はりきって開園前から並び、2番目に入場。
GWなので園内に人が多くなる前に撮影ポイント探し大急ぎで撮影。
30分もすると多くの人々で賑わい始めた。

一通り撮影を終えた僕は満開のバラ園をゆっくり楽しんだ。


満開のバラ園で



この頃は大勢の人の中での孤独というのはとても心地よくなってきた。
一人でこそ見えてくるもの、感じることを大事にしたいと思っているし、何より気楽だ。
これは50歳を過ぎての大いなる成長ということなのだろうか。うーんどうだか。
 
夜はえびの市のホテルに泊まり、夕食はその隣にあったレトロなレストランへ。
ここのナポリタンとハンバーグがあまりに美味しくて感激してしまった。
『チャオというお店なのだが、昔からこの地域で親しまれているファミリーレストランのようだ。

店内を照らすシャンデリアも開店当時からのものだろうか。
柔らかい光に包まれる店内。こんなお店との遭遇も旅の大きな楽しみだ。


見上げるとレトロなシャンデリア



翌朝7時前、霧島の御池へ。

静粛の中、湖に山々が映し出されていた。
そしてカメラを取り出し水際で撮影を始めたおよそ5分後、山々は分厚い雲に覆われてしまった。

うーん仕事にならないなあこれは。

もう少し撮影したかったなあと残念な気持ちを抑えながら深呼吸。


山が見えていたのはほんの一瞬



気分を切り替え、こんな曇天の日にこそ美しい場所はないかと地図を眺めていた。
すると美しい水源地があるようなので、そちらへと車を走らせた。
原生林や水源地は曇り空でこそ美しい場合がよくあるのだ。
えびの市の奥地にある小さな集落を抜けながら水源を目指す。

次第に道幅が狭くなり、離合さえままならない状況に。
しかも道路のすぐ隣には勢いよく水路が走っていて、なかなか難易度の高い道だ。
しかしこのきれいな水の流れがこの先の水源地への期待を膨らませる。


水路と共に狭い道は続く




そしてしばらく進むと、なんとも美しい色を湛えた池が姿を見せた。

この色はなんと表現すればいいのだろう。
周囲の木々の緑と水の青が交じり合っただけでは創り出せないような透き通った青の世界が広がっている。
風が水面を時折揺らし、青の表情をより豊かに変化させてゆく。
鳥の声、水の流れに包囲されながら人差し指でシャッターを押してゆく。
その行為がとても神聖な行為とさえ感じてしまう時間が流れてゆく。


美しい水面が木々を映している



撮影を終え車に戻る。

ラジオ体操が流れていた武雄の山でのことを思い出し、
同じ緑でもずいぶん雰囲気が違うなあと改めて自然の懐の大きさを感じる。

バラから緑、そして曇り空の先にたどり着いたこの場所。
これからも偶然の巡り合いを大切にしながら撮影を続けていければと思う。


草原に飼いヤギ





●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →