想いにふれる メイドイン

秋分の候。夜が段々長くなるね~

column

February 10, 2020

ひとしずくの台湾 ーMade in Taiwanを探しにー
drop16 「ロマンチック台三線芸術祭」から生まれた 新たなアートスポット
〈前編〉〜桃園・龍潭〜

福岡市在住フリーランスライターが綴る
「Made in TAIWAN」をテーマにしたアレコレ。
仕事でもプライベートでも、何度でも訪れてしまう台湾の魅力を
ゆるゆると発信します。
by arei maeda

 

drop16 「ロマンチック台三線芸術祭」から生まれた
新たなアートスポット〈前編〉〜桃園・龍潭〜

 

旅ゆけば、いざ目指すところへ、どこまでも。

国内外、わざわざでも行きたくなる魅力的なスポットってありますよね。
台湾も然り、東西南北、みなさんにとってもいつかは訪れたい
魅惑スポットがたくさんあるかと思います。

私にとっては台中の北側にある自然豊かな苗栗県がその1つだったのですが、
念願叶って、昨年12月、『ロマンチック台三線藝術祭』と名付けられた
芸術祭のメディアツアーに参加させていただきました。
キーワードは「客家文化の復興と継承」。

 台三線とは、桃園から台中まで、台湾の西側を北南に走る道のことで
「内山公路」とも呼ばれている国道のような道のこと。
このエリアには客家(17世紀に中国大陸から渡ってきた漢民族系)の
集落が16ほど点在していますが、もともとは山奥だった場所を、
客家の人たちが長い歳月をかけて開拓してきたという歴史があります。




『ロマンチック台三線藝術祭』公式サイトより


芸術祭は、その歴史ある客家文化を保護する目的のもと、
客家文化協会の主催で初企画されました。

それがなんともダイナミック!
台三線が通る台北、桃園、苗栗、台中など計5つの県市・10のエリアを繋いで、
日本人作家による作品も含む50以上のアート作品と100以上のカルチャー体験を発信。
距離にして150キロメートル!
おそらくこれまでにない範囲でのアートイベントだったようです。

芸術祭自体は幕を閉じましたが、常設アートとしてそのまま現存し、
訪ねることができる素敵なスポットが多数あるので、
前後編に分けてエリアごとに紹介したいと思います。


前編は、台北から車で1時間半ほど。
台湾の北部に位置する桃園市龍潭(ロンタン)地区のアート作品の紹介です。


■桃園市 龍潭(ロンタン)地区
龍潭では、大まかに分けて、3つのエリアを巡ることができます。

『ロマンチック台三線藝術祭』公式サイトより

 

 

その1『三坑老街』エリア
長さ100メートルという、台湾で最も短いといわれる老街で知られる『三坑老街』。
『永福宮』が見守るレンガ造りのレトロな雰囲気が魅力です。
平日は静まり返っていましたが、週末になると夜市と化して農家さんなどによる出店が並び、
デートスポットとしても賑わうそうです。

 

 

ふと見上げれば、神様発見


 

老街から歩いて数分のところに広がるのどかな田園地帯。
その一角に、かまくらを思わせるインスタレーションがありました。

「興自然共生共有」(景山健)

 

 

よく見ると、竹で組んだドームをベースに、お箸で三角錐を作り、
それを散りばめて創られています。
自然や木(箸)の文化など共通項の多い台湾と日本ですが、
この作品は日本人の作家・景山健さんによるもの。
地元の農家さんたちや旅行者の手も加わった「共生・共有」のコラボレーションです。

 

その2『三坑自然生態公園』エリア
三坑老街』から車で5分ほど東へ行くと、住民の憩いの場『三坑自然生態公園』があります。
ここは湖を有した公園自体が魅力的で、見慣れぬ植物やきれいな鳥の声が迎えてくれました。
自然の気に包まれる感じ、癒されます。


 

公園内では4カ所のアート作品が展示されており、
そのうちの3カ所を見学しました。
 
 



『年輪下,細說樟之細路』(林舜龍×景山健)

 

 
高さ5〜6メートルほどでしょうか、
宮崎駿ワールドを思わせる巨大な木のインスタレーションは、
鋼板と木材を紡いで創られています。
中に入ると、楠の若木が植えられていました。
見上げた先には年輪とともにトンボの羽がぶら下がっています。

こちらは案内役を務めてくれた作家兼キュレーター、
林舜龍(リン・シュンロン)さんと、景山さんとのコラボ作品。
林さんは『瀬戸内国際芸術祭』への出品でも知られる方です。
天と地と、年輪が育んできた時間と未来と。
光と影が対峙する静謐な時空をずっと味わっていたい感じ。
空間は今後、写真展など展示会スペースとしても活用していくそうです。
すぐ近くには同作家陣による『水琴窟』もありました。






穴に耳を近づけると、微かに水音が響いてきます。
お天気の日はこの素敵なベンチに座って、石に触れながら水滴が奏でる音楽を聴き、
自然と対話する時間が持てそうです。
湖の岸辺には、地元の陶芸家によるお碗でお茶とコミュニケーションが楽しめるようにと、
茶室をイメージして造られた『浮草庵』も。

『浮草庵-從湖上觀望』(水内貴英)

 

公園内のアート作品はどれもナチュラルな素材やトーンで、
自然との調和を大事にする台湾らしさを感じました。


その3『大平里集会所』エリア(桃園市龍潭區永平路80號)
 


案内してくれた林さん。『家の記憶風景』(林舜龍×潘羽祐)

 

最後は、芸術祭の中でも注目度の高かった
「家が持つ記憶風景」をテーマにしたアート作品。
この地域で解体された古い家の廃材を使って再建した作品に、
地元の子どもたちが描いたイラストや粘土板がはめ込まれています。




足元からも記憶の世界へ

 


「ぜひ中に入って、内側の空間からつながる世界を見てほしい」と説明する、
キュレーター林さんの口からよく出てきたのは「記憶」という言葉。

この町や場所、そこで過ごした家族の記憶を再構築し、
さらには体験者の大切な記憶や思い出を呼び覚ます装置のような、愛おしい作品に感じました。
扉を開けて記念撮影できたりするので、SNS映えスポットとして旅行者の間でも火がついていきそう。

『龍潭』は決して派手な地域ではありませんが、
「少し立ち止まって、自然とクリエーションが織りなす場所が持つ時間や感覚を共有したい」、
そんなスローな旅を好む人におすすめしたいエリア。

四方を山々に囲まれた田舎育ちの私ですが、
学校帰りに寄り道して田んぼで転げ回った子ども時代に戻ったような懐かしさが湧き、
胸がときめいたコースでした。



 

#Made in Taiwan 16

注目のフォトジェニックスポット
「龍潭(ロンタン)」のアート巡り


台湾一短い老街「三坑老街」〜「三坑自然生態公園」〜体験型アートの新名所「家の記憶風景」(大平里集会所)を巡る旅が楽しめる桃園・龍潭地区。週末に出かけて老街で食べ歩きした後は、公園をのんびり散策して「家の記憶風景」で記念撮影を。そこから徒歩10分弱で行けるレンガ造りのアーチが美しい「大平紅橋」(桃園市龍潭區石門路53號)もセットでぜひ。

【アクセス】
台北駅から列車やバスを乗り継いで「三坑老街」まで最短で約2時間半
(例:台北転運駅から1820番のバスに乗り「国光客運龍潭站」で下車。
「中正北龍路」から5051番のバスに乗り、「三坑」下車し徒歩6分ほど。片道110元)。
そこから各スポットを巡るにはタクシー利用がおすすめです。
 

 


●写真・文/前田亜礼


■■プロフィール■■
●前田亜礼(まえだ・あれい)/福岡市在住フリーランスライター。
大分県日田市出身。台北のガイドブック執筆をきっかけに、2009年から台湾へ。
以来、仕事の合間を縫っては気まま旅を楽しんでいます。いつかは台湾暮らしを夢見て、中国語と二胡を修業中。