column
October 15, 2023
シャッター音を傍らに
scene44 【10月】たどり着けない風景
福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

高千穂盆地 夜明け前
【10月】たどり着けない風景
ずっと巡り合えない風景がある。
もちろん多くの人はすでに出合っているだろうけれど、
僕は過去に6回ほどこの風景を求めてやってきているけれど巡り合えない。もはや縁がないということだろうか。
高千穂盆地を覆う雲海は秋から冬にかけてのこの地域の名物として知られているけれど、
僕はすっぽり覆う完全な雲海を見たことがない。
10年以上前にせいぜい半分ほどの雲海に1度出合ったのみ。

2006年撮影 雲海は半分ほど
そして先日、天気予報で朝の気温が9度とかなり冷え込むという予報を聞いて、再び高千穂にやってきたのだ。
で、結論からいうと今回も出合えなかった。
早朝に起きて周囲を見渡すと視界良好。よって雲海なし。
目覚めて数秒後にがっくりという1日の始まりだ。遠い遠い風景。

川霧は出ていたけれど
とはいえせっかくここまでやってきたので、
気を取り直して雲海を見渡す名所である国見が丘展望台へと向かった。
そこにはすでに車が30台ほど停まっていて、多くの人が日の出を待っている。
雲海はないとはいえ、神々の国で朝日を迎えるのだ。みんな笑顔でその時を待っている。

多くの人たちが朝日を待っている

遠くの雲が朝焼けに
落ち込んでいた僕は朝日にとても申し訳ないような気持ちになりながらカメラを向けた。
神話の里の素晴らしい朝日だ。

澄んだ空気を朝日が照らし始める
この秋、何度かまた雲海を求めてこの地へ来ようと思っているけれど、
出合えないからこそ何度も行きたいということになる。
出合ってしまえばパタリと来なくなるかもしれないので、
そう考えると出合えないからこそ生まれる楽しみということにもなる。
それはそれでいいのかもしれない。
望んでもたどり着けない貴重な場所。出合った時は正に神々の光景と思えるに違いない。
ということで次回も出合えないことを願う。いややっぱり出合いたいかな。

帰りは日之影町へ
●写真・文/川上信也
■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami
■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →☆