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column

June 19, 2023

シャッター音を傍らに
scene41 【6月】命の大木

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

地元では生きる力をもらうといわれているアコウの大木




【6
月】命の大木


今月は花菖蒲の撮影で各地を巡っていた。

いろいろと撮影シーンを思い描きながら準備はしていたけれど、
予定はあくまで予定なので、いつも通りその場であたふたしながら撮影は続いてゆく。

自然相手の撮影はそんなものだと今月も改めて実感した撮影旅となった。
天草市本渡にある菖蒲園の「今が満開」という情報が入ると、一気に車を走らせた。
遠くはるばるやって来たのだから逃すわけにはいかない。



まるでラピュタのような雲仙を見ながら天草へ



翌朝は早起きしホテルの朝食もあきらめ、まだ誰もいない夜明け前に張り切って到着した。
そして到着すると、菖蒲園は8時半開園。うーん何で調べておかないかなあ。

気を取り直して待ち続け一番乗りで乗り込んだけれど、肝心の花はやや終わり気味。
確かに満開といえば満開であるけれど、最終段階の満開で茶色が目立つ。
花の撮影ではよくあることなのだが、満開という情報が入ってきてもそれがとてもいい状態とは限らない。
個人的な作品撮影ならなんとかなりそうな感じではあったけれど、やはりカレンダーの仕事となると無理。
早起きも花も不発。あー眠い、だるい。



菖蒲は終わり気味で苦し紛れの一枚

 


こういうことは年に数回はある。
仕方なく隣の池に咲いているホテイアオイを撮影したけれど、
菖蒲とホテイアオイでは勝負にならない(ダジャレもけだるい)。
まあホテイアオイもきれいだったけれど。



ホテイアオイは朝露の中きれいに咲いていた




そして落ち込んでいる気持ちを何とか振り切ろうと地図を広げた。

すると本渡からさらに車を一時間ほど走らせた天草の端っこにある公園に、
命の木とも呼ばれるアコウの大木があることを思い出したのだった。

椿の森の中に突然姿を現す大木。
ということで菖蒲をあきらめてアコウに変更。
アコウの大木は今ではまるでジブリの木のようだと人気になっているらしい。



木々の向こうにアコウの大木




このアコウの大木のおかげで天草での撮影は結果的にはとてもいいものとなった。
公園からは美しい海も撮影できたし、まあ早起きしてよかったなあとようやく安らぎの時間が訪れるのだった。




青い海にたたずむ岩がなかなか個性的



そういえば過去にも似たような経験があったなと思い出していた。

桜島を撮影しようと編集者と鹿児島を訪れた際、大雨で桜島がまったく見えず途方に暮れていた時のこと。
桜島にあるアコウの大木のことを思い出して編集者に伝えると、
こっちの方があまり知られてなくていいかもと結果的にそれがよかったのだ。
あの時もアコウに助けられたことになる。

天草のアコウは、地元の方々はもちろん昔から知っていて、
木のそばにいくと不思議と元気になるから「命の木」と呼ばれているらしい。
確かに僕も元気になった。


その後、天草からフェリーで島原にわたり、長崎県の佐々町にある菖蒲園へと向かった。
こちらは24時間開放ということを確認し、同じくホテルの朝食を我慢して張り切って夜明け前に向かった。
すると何とここでも天草と同様、満開を少し過ぎた状態。そして再び落ち込んでしまったのだ。
そして再び地図を広げるのだった。どこかにアコウの大木はないかな。人生は上がったり下がったりの繰り返しだ。


長崎では結局棚田を撮影。これも結果的にはよかった

 

 

●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →