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column

October 17, 2022

シャッター音を傍らに
scene34 【10月】車中泊の音色

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

車窓からのススキがきれい




【10
月】車中泊の音色


暑さもずいぶんとやわらいだので、車中泊をしながらの撮影が続いていた。

「車中泊」という言葉はここ数年で一気に広まったように思うけれど、
僕は20年以上前から車中泊をしながら撮影を続けていたので特に新鮮味はなく、
なんか夜の道の駅が混雑してきたなあと実感するくらいだ。

だからといって特に困っているわけでもなく、むしろ多くの仲間がいて治安的にも安心だなあと思ったりもする。
まあ仲間といってもお互いに話すわけでもないし、近くに停まってお互い車中泊なんですねと、
小さく心の中でつぶやくくらいのお付き合いだ(付き合いとも呼べないか)。

20年ほど前の田舎の道の駅は、いわゆるヤンキーのたまり場になっていたりもしたから、
むしろちょっと混み合う今の方が安心というわけだ。

僕は夜中にやって来て早朝に出ていくので、車中泊というより仮眠のような感じではあるけれど、
やはり起きてすぐに撮影出発というのはてっとり早い。
起きてすぐの散歩道にとてもいい光が降り注いでいることもしばしば。
そして宿の心配することなく遅くまで撮影できるのも利点。



霧島麓の散歩道にて

上場高原のコスモス



また、車を停めて寝袋に入って、通り過ぎる車の音を聴きながら眠るというのはなかなかいいもの。
高速のサービスエリアで仮眠の時は、エンジンをかけっぱなしにしているトラックのエンジン音が不思議と心地いい。
あの独特のディーゼル音。

もちろん僕は自然風景を主に撮影しているので、
鳥の声や川の音、波の音が聞こえてくるとそれはとてもうれしくなるけれど、それとは全く違う心地よさ。
先日はこのトラックのエンジン音はどうして心地いいのかなとしばらく考えていた(暇ですね)。
あの音はフェリーに乗って眠る時の音にも似ているし、ふるさとの田舎を走る汽車の音にもそっくりだ。
要するに船で旅する時の胸のときめきや、駅のホームで汽車を待つ田舎の風景がよみがえってくるのだ。
これらの憧憬的懐かしさが入り交じっての心地よさということだろう。


高速道路の街灯の色も好き




ちょっと違っていたのが先日車中泊した『道の駅 霧島

ここは標高の高い大自然に囲まれた場所にあるので、トラックは停まっていない。
目の前を通り過ぎる車も非常に少なく、同じく車中泊だろうと思われる車は数台のみ。
車窓越しに木々のシルエットの向こうに月が見えている。ものすごく静かだ。

するとどこからともなく犬の鳴き声が響いてきた。
何かを警戒するような「ウォーンウォーン」というちょっと寂し気な声が森にこだましている。
するとそれに反応したかのように鹿の鳴き声が聞こえた。

月夜に響く犬と鹿の声。
車のそばの茂みでは秋の虫が音色を奏でている。
そして時々通り過ぎる車の音、ドアの開け閉めの音、小さく聞こえるラジオの音。
大自然と人々の小さな営みがカルテットのように夜の闇に溶け込んでいる。
それはどこかミステリアスな響きを含む音楽のようだ。
耳を澄ましていると、今いるこの世界はちょっとした振動で崩れてしまう繊細さの上に成り立っているように思えてくる。


そこにいる僕は小さな幸せを感じながら眠りについている。
そんな夜を過ごした後の肝心の早朝撮影はというと、期待の雲海は出てなかったり天気はイマイチだったりと散々。
次回はそんなカルテットに最高に心地いいシャッター音を響かせたい。 


高千穂峰の雲に朝の光






●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →