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column

March 04, 2021

シャッター音を傍らに
scene16 【3月】 シャッター音は音楽と共に

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

どの写真にもリズムが響いている




【3
月】シャッター音は音楽と共に


新しい車になって、カーオーディオがCDからUSB中心となり、助手席がCDの山になることもなく、
大量の音楽を小さなスティックで車に持ち込むことになった(完全に時代に取り残されている)。

そしてドライブをしながら改めて懐かしい音楽を聴き、
多くの人がそうであるように、あの音楽を聴くと当時の風景や出来事を鮮明に思い出す、
という感覚が次から次へとやってきたのだった。

ジュリーの『酒場でDABADAが流れると、小学生の頃に住んでいた町の夜の海が思い浮かぶ。
父親とよく週末に夜釣りに行っていたのだが、その時に車でよく聴いていたのだ。
同じ年代の方ならやっていたと思うけれど、
テレビの前にラジカセを置いて「ベストテン」を録音したカセットテープだ。
なので『酒場でDABADAは、僕にとっては今でも夜釣りのテーマ曲となっている。

同様に寺尾聡の『ルビーの指輪は、
近所の森でクワガタ捕りの時になぜかよく口ずさんでいたので(生意気な小学生だ!)、
クワガタの森のテーマ曲。

またくじゅうにいた頃、夜の大船林道を歩きながらよく聴いていた
Beatlesの『Only A Northern Songは、夜の木々のざわめきと結びついている。

朝の阿蘇くじゅうを車で巡って撮りまくっていた時はベートーヴェンの「田園」。
夜明け前のくじゅうにぴったりの曲だ。

 

朝のくじゅうではクラシック音楽をよく聴いていた

 


小野リサの『Red Blouseは、天草を旅していた時にずっと聴いていたので、
反射的に青い海と共に並べられた干しタコ風景が現れる。

そしてこの曲を聴くと天気がよくなるという不思議な現象がよく起こるので、
大事な屋外での撮影のある日は今でも聴くように心がけている。

いつか小野リサに会うことがあったら(ないだろうけれど)、
いつも干しタコを、じゃないお天気をありがとうございますとお礼を言いたい。

 

天草の風景は小野リサ

 


そして北九州。
ここはジャズと結びついている。

僕は2009年からの10年間、北九州に写真の講師として呼ばれていて、
毎月北九州市立美術館に通っていた。
その写真グループのリーダーであったTさんから様々なジャズを教えていただたのだった。

Tさんは1960年代、まだカストロの時代だったキューバに3年間仕事で赴任した経験を持つ。
その時代に日本の音楽にはまったく興味がなくなり、キューバ音楽やジャズにのめり込んでいったという。

北九州美術館での写真講評が終わると、Tさんは僕のところにやってきて
「今日はどうもありがとう。これ聴いてみて」といってCDをよく手渡してくれた。
Tさんがお気に入りのジャズ音楽だ。

そして僕はそのCDを車で聴きながら福岡へと帰る。
北九州美術館の森を抜け、街灯が灯り始めた3号線に乗り、夜景を眺めながら西へと進む。

 

八幡の夜はジャズが響く

 

僕はジャズに詳しくはないけれど、アメリカで買ってきたというJeff Haas Trioや、
Tonu Naissooなどなど、まったく僕の知らない音楽の世界が北九州の風景の中に溶け込んでゆく。
Norah Jonesを教えていただいたのもTさんだ。

そんな中でも気に入っているのが『Mr.Bojanglesという曲。
演奏者はHenry Franklin,Steve Clover And Marc Sealesとあった。
長いので覚えられない。

シンプルながらもとても美しいピアノの旋律が続く印象的なジャズの曲。
この曲を聴くと北九州からの帰り、海沿いで出会った夕ぐれの風景、
たまたま見かけた彩雲、雨の日の何気ない車窓などなど、様々な北九州の風景がよみがえってくる。

 

彩雲を追いかけながら


雨音の中にジャズが響く



そして年配の方々を相手に大変だろうと言いながら、いつも僕の味方をしてくれたTさんを思い出す。
Tさんは数年前に亡くなり、僕もその後、北九州の講師を辞したけれど、
北九州から福岡へと向かう3号線を走れば今でもTさんから教えていただいたこの曲が強い印象として風景と結びついている。

またこの『Mr.Bojanglesを車で流していると、
同乗している編集者の方からも「このきれいな音楽は誰の曲?」とよく聞かれる。

そのたびに「えーと、誰だったか、何という曲だったかな、北九州の印象曲」などと謎の答えしか返せないので、
そろそろちゃんと覚えようと思っている。まず読み方が分からないな。

とにかく音楽は目の前に広がる風景をとても奥深く、豊かにしてくれている。

 

今日もシャッター音と共に音楽が響いている

 


●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →