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column

November 30, 2020

シャッター音を傍らに
scene13 【12月】 晩秋ナイアガラ慕情

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

竹田市用作公園にて





【12
月】晩秋ナイアガラ慕情


晩秋のある日、日田のホテルで朝を迎えた。

前日は仕事で夜おそくチェックインしたため、周囲がどのような雰囲気なのか全く分からなかったけれど、
建物は1970年代(もしかするともっと前)あたりから
ほぼ変わっていないと思われるかなり年季の入ったホテルであることはよく分かった。

しかし朝を迎え、8階の部屋の大きな窓のカーテンを開けた時、
そこには朝霧が漂う三隈川、目覚める日田の街並み、そして雲海の広がる山々が広がっていたのだった。

こうなると建物の古さもまた風情あるじゃないかと錯覚のように思えてくるのだった。

 

日田の古いホテルのベランダより

 

数日後、鹿児島へ。
特にあてがあるわけでもなく、仕事の合間にとりあえず晩秋の鹿児島を巡ってみようと車を走らせた。

夜の10時過ぎに福岡を出発し、熊本の緑川パーキングで車中泊。
そして朝5時に起き、九州道を南下し、横川インターを降りた。
そして山と田んぼに囲まれた国道を走っていたときのこと、
朝霧が田んぼを覆い、そこに山の向こうからヴェールに覆われた太陽が大地を照らし始めたのだった。

僕は慌てて田んぼ脇の小道に車を止めカメラを取り出した。
瞬く間に世界は黄金色に輝き、静止していた朝霧が大地をなめらかに滑り始める。
一体ここはどこなんだろう。

予期せぬWonderful World!

 

鹿児島の田舎の小道より

 


しばらく進むと藺牟田池の看板が現れる。
紅葉はもう終わっていると思うのだが、早朝の水辺というだけでもとても惹かれる。
そしてここでもやはり予期せぬ風景が待っていた。

大地に現れた大きく輝く瞳のような池が、大気に洗われた山々を映している。
そして水辺の木々は僅かなさざ波にシルエットを揺らしている。
静謐さをたたえた水面、それはたった今目覚めた希望にあふれた光景のように思えた。

その後、東洋のナイアガラと呼ばれる曾木の滝へ。

 

池というより異国の湖のような藺牟田池

東洋のナイアガラ 曾木の滝にて

 

帰りは久々に白丹泊。

次の日の早朝はいつものようにくじゅう夜明けのドライブ。
まだ紅葉が残っていた用作公園など竹田市方面を一通り走ったところで、
「紅葉の名所」という看板を見つけ知らない小道を進んでいった。

するとそこには松原公園という地域の方々が大切に手入れしていると思われる公園があり、
文久と刻まれた鳥居が残されていた。

お隣の城原神社と共に江戸時代からずっとここにある風景。

 

松原公園の小さな鳥居は江戸時代からここにある

地面に描かれた木々の模様に猫一匹。城原神社にて

 


晩秋は思いがけない風景との出会いが続いた。

ちょっと寂し気な雰囲気も漂うけれど、
ずっと大瀧詠一のアルバムを車で流していたので、気分はずっとナイアガラ慕情だ。

 

コンビニの駐車場で晩秋の夕暮れ

 

 

●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →