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column

July 29, 2020

シャッター音を傍らに
scene09 【8月】フィルムカメラのシャッター音を傍らに

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya


糸島の海岸で Nikon New FM2 50mm

 

 

【8月】フィルムカメラのシャッター音を傍らに

 

いまだ遠くへは出かけられない日々が続いているけれど、
そんな日々の中で多くの人たちががそうしたように、
僕も部屋の片づけをこれまでになく念入りにすることにしたのだった。

そんな中でほぼ眠っている状態のフィルムカメラの数々を押し入れから取り出し、
いろいろと眺めているうちに懐かしさもこみあげてきて、全然はかどらない日々が続くのだった。

フィルムカメラは6台持っている。
そのうち4台はもう10年以上使っていない。

残りの2台は今でも時々撮影しているのだが、
そのカメラに入っているフィルムが10枚ほど残されていることに気付き、
さっそくフィルムを最後まで使い果たすために近所へと出かけたのだった。

Nikon New FM2はマニュアルカメラであるから、ピントも絞りもシャッタースピードも自分で操作しなければならない。
シャッターチャンスを逃す可能性もあるので、ちょっと焦りながら
カチャカチャと操作を思い出しながら(忘れていることもしばしば…)シャッターボタンを押す。

すると「カシャーン」と、すごく大げさとも思えるシャッター音が響く。
この音がものすごく気持ちいい。

心の奥深くにこの瞬間がカメラを通して刻み込まれるような振動。
例えば車好きの人はマニュアル車のギアを変える感触がたまらないという話を聞くけれど、
それとちょっと似た感覚かもしれない(僕はずっとオートマ車です)。


庭のザクロとNikon New FM2

 

最後の1枚を撮影し、近所のカメラ屋さんへフィルムを持ってゆく。
だいたい1時間ほどでフィルム現像は出来上がり、ネガフィルムの茶色いフィルムが手渡される。

ここから僕はこの茶色のネガフィルムをデジタルカメラで複写してパソコンで色を復元し、
気に入ったものをプリントしている。

そして仕上がった写真の数々。

複写はデジタルカメラなので昔と今の混合作業という形になるけれど、
この味わい、雰囲気はデジタルカメラのみの撮影ではなかなか出すことができない。
周囲の黒いフィルムの枠はノートリミングの証明となり、僕はただかっこいいなということで残している。

 

百道での夕暮れ時

薄暮の室見川河口

 

 

今回、同時に『フジカハーフ』というハーフサイズカメラに入れっぱなしになっていたフィルムも現像してみたのだが、3年ほど前に撮影した写真が現れた。

忘れたころに姿を現すというのもフィルムカメラの魅力。
フジカハーフは1960年代に製造された小型カメラ。

クラシックカメラなので、光がカメラ内部に入り込んで感光して不思議な1枚になることもしばしば。
ピントも露出も適当に合わせるのみなので、仕上がり予測不能というあやふやさがこのカメラの魅力。

 

宮崎県高千穂町 国見岳の夜明け

室見川にやってきたユリカモメ

 

フィルムカメラは現像の際に現像液を使用するため、水分を通して現れた画像ということになる。

僕はこの過程がとても大事だと思っていて、それが写真に命を吹きこむように感じることがある。

もちろん今の時代、フィルムカメラは仕事では皆無、趣味で時々という感じにならざるを得ないけれど、
この過程を体感で知っておくだけでデジタルカメラでの撮影にもいい影響を及ぼすと思っている。

そういえばデジタル全盛になってから心霊写真というものをまったく聞かなくなった。
これも水を通してということと関係あるのだろうか。
僕はフィルム時代からそんな写真撮ったことないけれど。

 

 

●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →