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September 23, 2023

シリーズ いまここ
vol.1 『LUMO BOOKS』 藤本愛さん・渕上コウジさん

この人は、この場所は、
どんな道を歩んでここに辿り着いたのだろう。

今ここが面白いんだから、
これまでの道程もきっと面白いはず。

興味深いモノ・コト・ヒトに出会ったとき、
ふと頭をもたげる小さな好奇心。

日々に埋もれて消えていく
そんな好奇心に、たまには従ってみたい。

そんな思いつきで始めた
シリーズ『いまここ』。
不定期でお届けします。






“二人二様”のキャリアスタート

元々福岡市中央区警固で『gallery LUMO』を運営していた、
グラフィックデザイナーの藤本愛さんと、イラストレーターの渕上コウジさん。

いわば他の作家を応援するギャラリー業を15年続け、
「応援は十分やりきったかな」と2023年にクローズ。
併設していた古本と作家作品のショップ『LUMO BOOKS & WORKS』を、
二人が大好きな本をメインにした『LUMO BOOKS』に改め、
同年7月、中央区谷の馬屋谷テラスに移って再始動した。


二人は学生時代からの友人だが、藤本さんは卒業後印刷会社に勤め、
企画室のデザイナーとしてキャリアをスタート。
一方、渕上さんはご自身いわく「絵を描くのが好きだからイラストレーターに
なろうと思ったけど、なり方も分からない」状態だったそう。
そんな中、今も深交のあるカジワラブランディング・梶原さんとの出会いが、
渕上さんのイラストレーター人生を切り開いていくことに。

(藤本)「元々、梶原さんが私の印刷会社と一緒に仕事をしていたのですが、ある時、イラストを描ける人が必要になって、私が渕上を紹介したんです。それで“何か描いたものを見たい”と言われ、当時はまだFAXでしたが、渕上があてもなく描き溜めていたしょうもない絵(笑)を急いで送ったんですね。そしたら会ってみようという話になり、それがご縁の始まりでした」。


それからの渕上さんは、梶原さんが多くの会社に紹介してくれたこともあり、
駆け足でイラストレーターとしての評価を高めていった。




木々が生い茂る狭い坂道を上ると、緑の中から『LUMO BOOKS』が現れる

陽の光が差し込むエントランス




ギャラリーは突然に

 
渕上さんのイラストレーターデビューから13年ほど経った2008年のある日、
梶原さんからこんなお話が。

(渕上)「梶原さんが事務所を引っ越すことになり、“ここ空くから何かやってみない?”と言われたんですが、毎月の家賃も大変だしと思ってお断りしました。でも藤本にその話をしたら、彼女は“ギャラリーをやってみよう!”と」。

(藤本)「そのお話をいただく前、しばらくデザインの仕事が嫌になった時期がありまして。そのときはバッグを作ってたんですけど、結構本気で(笑)。56年くらい、個展をしたり海外に売り込みに行ったりもしてました。その時にギャラリーをしている方たちと交流があり、素敵な仕事だなと憧れを持ったんです。それで渕上から話を聞いて、やってみるか! と。いつかやろうと計画してた訳でもなく、貯金も何もなかったんですけどね」。

開業資金の目処も立たないまま、取りあえず梶原さんに「借ります」と伝えに行った二人。
すると、偶然そこに居合わせた設計会社の社長さんに内装デザインの仕事を依頼されたそう。
その報酬をすべて開業資金に充て、電気工事以外はほぼDIYで造り上げたのが、
2008年にオープンした『gallery LUMO』だった。


そこから15年、本業のデザイン、イラストの仕事をしながら「全然儲からない」ギャラリーと、
LUMO BOOKS & WORKS』の経営を続けた二人。
そして2023年、梶原さんと3人で3年かけて探したという馬屋谷へやってきた。

当初は“街中から少し引っ込んだ”感じがして、お客さんの入りも心配だったものの、
蓋を開けてみれば月間来客数は警固時代超え。
本のセレクトも、好きなものに絞るスタイルが定着し、
「このお店に合いそう」と古本をまとめて持ち込んでくれるお客さんも出てきた。
現在は「店としてやりたいことは7080%実現できている」という。





 
左は『LUMO BOOKS』になる前の民家。古い建物ながら、ご婦人がキレイに住まれていたそう


階段を上がり2階へ

小さな図書館のようなワクワク感に、思わず時間を忘れる






“魅力の再構築”で

客足の絶えない古本店に

 
“出版不況”、“書店離れ”といわれて久しい中、
週末だけの営業で、アクセスも決してよくはない『LUMO BOOKS』には、次々とお客さんが訪れている。
その理由は、古本店としてのコンセプト、そして二人のスタンスにありそうだ。

(藤本)「どこでも買える本ではなくて、自分たちが知りたい、読みたいと思うような、好きな本だけを置くことにしています。以前は、ある程度ジャンルに幅があった方がいいと思い、流行り物とか受けが良さそうな物も置いていました。でもある時、そういう本を全部棚からなくしたんです。当時3,000冊くらいあった内の1,000冊くらいを外したと思います。すると不思議なことに、何人ものお客さんから“本、増えました?”って聞かれたんですよ」。

どこにでもある“背景”になってしまうような本がなくなり、
ここにしかない、目が止まって素通りしにくい本ばかりになれば、
本が増えたように感じるのも当然かもしれない。
そしてもちろん、二人の工夫は好きなジャンルに絞ることだけではない。

(藤本)「古本にしかない魅力ってありますよね。装丁も内容も、現代の本みたいにキレイでサラーっとしていない。昔の本って情報量が膨大で、書いた人のすごい熱量を感じますし、内容も普遍的な価値があるものが多く、だからこそ今も残っているのではないでしょうか。一方で、古本は読み辛いとか汚そうといったイメージを持たれていたり、探す楽しみはありつつも、良い本に出会うのが大変ということもあります。なので、私たちが良い本を探してきて、内容や魅力がしっかり伝わるように、棚の構成を考えたり、ポップで紹介したり、“魅力の再構築”をしてお客さんに渡せたらと思っています。もちろんキレイにメンテナンスもしてますよ(笑)」。




ポップを付けると途端に売れることも多いのだとか。古本たちが潔過ぎる装丁の奥に隠し持っている魅力を、渕上さんのイラストが垣間見せてくれる


 




空間にマッチしたディスプレイに思わず手が伸びる

1階に下りようとすると、さっき気になっていた表紙とまた目が合ってしまう。巧妙な罠









これからの二人

 
LUMO BOOKS』が理想の古本店に近づいてきた今、二人はその先に何を見ているのだろう。
今一番やりたいことを聞いてみた。

(渕上)「個人的には自分のキャリアはまだまだで、始まってもいないくらいの感覚なんですよ。それに馬屋谷テラスも、全体ではまだポテンシャルの10%も使えていないと思います。そして今ここで一番やりたいのは⋯ビオトープづくりです(笑)。二人とも自然科学が好きだったんですが、やっとそれを仕事にできる環境が手に入ったなという感じです」。

(藤本)「私も庭づくりがしたいですね。ずっと昔から根付いている今の野草もいいのですが、ちょっとワイルド過ぎるので(笑)、西洋植物を植えてナチュラルガーデンにしたいです」。

ビオトープも庭づくりも、そして古本店をやるのも、端的に言えばお金のためではなく、
自分たちが好きなこと、楽しいことをやっていたいから。だからこそ、デザイナー、
イラストレーターという本業と二足、三足の草鞋を履いてでも頑張れる。

先々を計画して道を決めるのではなく、
常にいま歩いているこの道で、どうすれば“好き”や“楽しい”に囲まれていられるかを考えてきた二人。
そんな二人が現在地の馬屋谷テラスにつくろうとしているのは、
自立したものづくりのクリエイターたちが緩く繋がり、何かを表現し、ウィンウィンになれる場所だ。
実際に『LUMO BOOKS』の設計者や庭のガーデナーも、
仕事としてだけでなく、“表現の場”という意識で関わってくれたのだとか。

そうして生まれた空間を訪れる人には、
このロケーションを楽しみ、ワクワクを共有し、何か新しい世界を見つけて帰ってほしい。
そんな願いと共に、二人がこれからどんな仕事を生み出して行くのか、
そして馬屋谷テラスの進化にも注目していきたい。




罪、美、知、エロス、オカルト、自然科学など、“そそる”カテゴリーに分類された古本に、標本や鉱石、昔のルーペなども並ぶ。どれも静かに大人の好奇心をくすぐってくる

壁掛けの後ろは、カジワラブランディングに続く隠し扉

畳敷に背の低い文机が並んだ、寺子屋を思わせるレストスペース

レストスペースの窓外には、庭に続く葛折の小道と市街の眺望が

庭の美しき野草たち

 

一日では見尽くせない古本たちに後ろ髪引かれつつ、異世界から現実へ⋯


 
 
  
 ■■データ■■

LUMO BOOKS
福岡市中央区谷2-2-13 →MAP
営業日金・土・日 12:00-18:00
https://www.instagram.com/lumo_books/
info@gallery-lumo.com

 
●初イベント開催中!
すすめ郷玩「きじ車編」
〜故郷に睡る玩具たち〜
 
【日時】
2023年9月22日(金)〜10月1日(日)12:00〜18:00
※会期中の金土日のみ開催
 
【トークイベント】
2023年10月1日(日)17:00〜19:00
すすめ郷玩「きじ車を語る会」
語る人: 宮崎智文氏(トゥモローデザイン)、高野志乃扶氏
※参加無料。要事前連絡
 
【詳細・問合せ】
https://www.instagram.com/lumo_books/
 

  

■■プロフィール■■

●藤本愛
福岡生まれ。日本各地を転々とする転勤族の家庭で育つ。美術短大を卒業後、印刷会社に勤務した後フリーに。広告、ロゴやパッケージなどのグラフィックデザインのほか、バッグやガラス等の立体作品も制作。2008年より、学生時代からの友人・渕上さんと『gallery LUMO(ギャラリールーモ)』を立ち上げ、様々なジャンルの企画展を開催。2013年にはギャラリー隣に古本と作家作品を扱うショップ『LUMO BOOKS & WORKS(ルーモ ブックス&ワークス)』をオープン。20237月からは中央区谷に移り『LUMO BOOKS』を運営。趣味は古本屋めぐりと庭仕事、たまに釣り。

<WORKS>福岡市美術館『ソール・ライター展』、福岡市博物館『ミイラ展』、九州国立博物館『天神縁起の世界』ほか多数。

 

●渕上コウジ
1970年福岡生まれ。95年よりフリーランスのイラストレーター。福岡を拠点に、シニカルなユーモアが生きたイラストで出版・広告(紙、webTVCM、キャラクターデザイン)など、全国で幅広く活動中。趣味は自然、釣り、城・古墳めぐり。UFOUMAなどの怪しげな話が好き。

<WORKS>ガンバ大阪マスコット『MOFLEM』のほか、ソラシドエア、天神ロフト、ディスカバリーチャンネル、地下鉄七隈線(六本松駅構内装飾)など多数。





■取材・文/橋本文平(メイドイン編集舎)