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column

December 09, 2024

シャッター音を傍らに
scene55 【12月】懐かしの場所へ

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

佐田岬灯台が見えてくると帰ってきたなと思う




【12
月】懐かしの場所へ


久しぶりに松山に帰省していた。
短い期間だったけれど、両親との時間をゆっくりと過ごせた。
母親を車に乗せて昔住んでいた町を訪れた。
愛媛県の東にある伊予三島という小さな町で、今は四国中央市というとてもつまらない名前の市の一部となっている。

僕はここで小学1年から3年までの約3年間を過ごした。
かつて住んでいた家は道路の拡張で取り壊されていて、
かろうじてその周辺に残る面影を感じながら母親と歩いた。

犬と散歩していた道は残っていたし、小学校は当時のままで、通学路にある石垣もそのままだった。
このなんてことのない石垣がどうして記憶に残っているのかよく分からない。
ここによく犬のフンがあったことくらいしか思い出せないのだけれど(果たしてこれを思い出というのかどうか)。



なんてことにない石垣が通学の思い出

 

小さな商店街は平日ということもあってかシャッター街となっていて、
当時の面影を見出すことができなかった。
近くに耳鼻科があって、僕が大泣きして通ったことを母親はよく覚えていたけれど、
僕は激痛だったことくらいしか覚えていない。

一時間ほど母親と歩いたけれど、思い出したのが石垣の犬のフンと耳鼻科の激痛というのはちょっと物足りないので、
車を運転しながら当時録音したカセットテープの音楽をかけた。
母親はこの町で有線放送の仕事をしていて、当時のヒット曲をカセットによく録音してくれていたのだ。
山口百恵『しなやかに歌って、ゴダイゴ銀河鉄道999、松山千春夜明けなどなど。

そのカセットが今でもきれいな音で聴くことができ、先日デジタル化したのだ。
これらの音楽とともに伊予三島をめぐると、僕も童心に戻ってあの頃の光景がくっきりとよみがえってくる。
音楽ってやっぱりいいなあ。
母親も懐かしそうに聴いている。



当時のカセットテープ

 
あれから50年近く過ぎた。
町も変わり僕も母もずいぶん変わったけれど、
色あせてしまった思い出も音楽とともに色彩を帯びてくるように思われた。

そしてこうやってとりあえず元気で思い出の町をドライブしている。
とてもいい時間だった。

当時は不気味に思えた大王製紙の煙突が車窓から見えていた。



煙突が見える風景が懐かしい



帰りは松山から三崎へと向かい、佐賀関行きのフェリーに乗って福岡へと向かう。
朝8時半に松山を出発し三崎までは約100キロの道のりとなるけれど、
信号のない田舎道が続くのでそれほどの距離は感じない。


海を眼下に眺めながらのドライブとなる



その途中、JR下灘駅がある。
今ではすっかりインスタ映えの聖地のようになって多くの人が訪れているけれど、
僕が高校生の頃はひっそりとした寂しい小さな駅だった。

一人旅をよくしていた僕は何度となく列車に乗ってこの駅を訪れていた。
スケッチブックを持って絵を描いていたのだ。今はカメラだなあ。

この日も多くの人が次から次にやってきていた。
当時からは考えられない賑わいがとても新鮮。


海を眺める駅、下灘駅



なんだか思い出に浸る時間がとても多い帰省となった。
も、ふるさとというのはそういうもの。
これからも両親と思い出に浸ることを楽しめるよう、何度となく帰省しようと思っている。

フェリーに乗り込み、しばらくすると再び佐田岬が見えてくる。
灯台が遠ざかってゆくと九州に戻ってきたなあと思う。


佐田岬灯台が遠ざかってゆく。もうすぐ九州





●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →