想いにふれる メイドイン

予防が大事。うがい&手洗い頑張ろう!

column

January 19, 2023

シャッター音を傍らに
scene37 【1月】フィルムカメラの待ち遠しい時間

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

フジカハーフでハーフサイズプリント

 



【1
月】フィルムカメラの待ち遠しい時間



数年前にフィルムカメラを購入して時々撮影している。
1963年製のフジカハーフというレトロな外観の小型カメラだ。

ハーフサイズなので24枚撮りフィルムで48枚撮影可能となる。
その分画質は落ちるけれど、デジタルの高画質に慣れているので、
むしろ圧倒的低画質の方が個性的で面白い。
構えると縦写真が基本になるので多くを縦で撮影している。
ピントは目測、シャッター絞りは選ぶこともできる優れもの。
そして小さいわりにズシリと結構重い。
この重量感は当時の職人の技術が詰まっているからだと勝手に思い込んで大事に使っている。

電池は必要ないのだが、露出計はちゃんと動いている。
どういう動力で動いているのか全く分からないのだが、
まるで命ある生き物のように明るい場所へ持っていくと針がヒュンと動く。
どうしてだろうな。謎だ。これも職人技なのだろうか。
ま、これは謎のままにしておこう。




レトロな色合いと不思議な丸いゴーストも特徴



僕がカメラマンとして仕事を始めた20年ほど前は、まだフィルムカメラでの仕事がいくつか残っていた。
大量のポジフィルムをいつものように現像所に持っていき、
約2時間後に仕上がったスリーブをルーペでのぞきながら選別して納品、という流れが出来上がっていた。

デジタルカメラの普及でその流れは一気に無くなってしまい、
その後は僕もフィルムからしばらく遠ざかっていたけれど、
レコードやカセットの良さが再評価されるのと同じように、
フィルムカメラが若い人々を中心に人気となりはじめ、
僕の気持ちの中でも再びフィルムカメラでという想いが膨らんでいったのだった。



時々赤く感光してしまうのも大きな魅力

ピントは目測なのでピンボケ多数



ただ当時と決定的に違うのは、仕事での撮影ではないので
厳密な露出が要求されるポジフィルムではなく、ある程度適当でいいネガフィルムであるということ。
要するに肩の力も気分もハーフ、適当に撮影するということだ。

この適当というのが意外にも難しい。

構図を考えてきれいに、なんていう気持ちはぐっと抑えて適当にヘタクソに撮る。
いつものくせでついつい綺麗に美しくなんて考えてしまうけれど(これは雑念か)、
そんな時は自分に、もっとヘタに!と喝を入れる。

本業の撮影に影響が出てきそうで不安も無きにしもあらずだけれど、この気分の振れ幅がいいのではと思っている。
いわば気分の上下を大きくして、いい方向への振れ幅も大きくするというイメージだろうか。



何を撮ったかよく分からない写真こそ新たなる発見




そんな中でも予想外に結構気に入ったものもあったりするので、それが写真の奥深いところなのだろうか。
フィルムを一本撮り終えてプリントするまでの時間というのも、すぐに確認できてしまうデジタルにはない大切な時間。
それは新しく未知なる自分との出会いへの、この上なく待ち遠しいカウントダウン的な意味合いもあるようなないような。

そんな撮影も加わって、今年も笑顔で鼻歌でも口ずさみながら
フジカハーフのちょっと頼りなげな軽いシャッター音でヘタな写真を撮ろうと思っている。
いやもちろんきれいで美しい写真も。

どうぞよろしくお願いいたします。



新年のお雑煮と糸島での日の出

 




●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →