column
July 19, 2022
シャッター音を傍らに
scene31 【7月】移動から移動の先に
福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya
【7月】移動から移動の先に
新大阪から博多行きの新幹線の中でこの原稿を書いている。
一度こんな作家のようなことがしてみたかったのだが、
車窓に気をとられて全くはかどらないことが判明してやめていた。
でも今回は締め切りをうんと過ぎているし(いつものことかな)、
暗くて車窓もよく見えないので、このタイミングこそ書く時だと思ったのだ。
先月から結構な移動距離の旅が続いていた。
四国徳島では二日間、猛暑の中での撮影。剣山麓の斜面に広がる集落へと向かった。
どこか遠くの外国にやってきたようだ。
曲がりくねった道の先の山々の向こうに見え隠れする、ソラと呼ばれる傾斜地集落。
僕は四国出身であるけれど、身近なところにまだまだ知らない世界がたくさん広がっていることを改めて知った。
四国の三崎からフェリーで九州佐賀関へと向かう。
ここからはいつもの九州風景撮影の仕事がはじまる。
佐伯市にとても美しい海岸があるということを知り、早朝に行ってみた。
駐車場の木陰に車を停めると、いい波音が木々の向こうから響いてくる。
朝日が波をキラキラ宝石のように輝かせている。
そんな風景へと向かう小道を行くときの気分の高鳴り。
この時点でもういい写真は撮れたかのように思えてくるけれど、
いざ砂浜を歩くとよりいい場所を求めて動きまわりながらの撮影が続く。
結局撮影の間は、この砂浜にやってきたのは3人ほど。
この日の美しい朝の光を見たのはこの世界で僕を含めて4人だけだと思うと、
目の前の風景がとてもいとおしく貴重なひとときの宝物のように思えてくる。
長崎へと向かい、平戸周辺の海を早朝から撮影。
誰もいない海と思ったら一人のサーファーが先に来ていて波に乗っていた。
一番乗りで朝日を浴びながらの波乗りなんてどんな気分だろう。
朝日と波音の中に響くシャッター音も心地いい。
しかし相変わらず動き回って慌ただしく撮影。
シャッターを切る時は息を止めていることが多く、枚数が多いと熱中症だけでなく窒息にも注意が必要。
ハワイのような緩やかな時間と風景が広がっているはずなのに、
窒息しそうなんてもったいないと反省しながら深呼吸。
くじゅう白丹で数日を過ごした後、大阪へと向かった。
大阪市内にあるごまの工場と、兵庫県西脇市でごま畑の撮影。
撮影後に久しぶりの友人と再会してなんばの喫茶店でホットケーキを食べ、
道頓堀や中ノ島公園を歩きながらひとときを過ごし、夕暮れ時の新幹線に乗り込んだ。
先日まで見ていた徳島の山奥や、大分、長崎の朝の海岸、
くじゅう白丹の静かな家、そして道頓堀の人だらけの活気。
短期間で巡ったせいもあるがやや頭が混乱している。
しかしどの世界でも同じように被写体に魅力を感じながらシャッターを切っている。
まるでクラシック音楽とロックの世界を行き来するように。
この行き来が世界をより面白く刺激的に見せているのだろう。
移動から移動の先に見えてきたのはそういうことなんだろうなあと改めて実感した月となった。
福山を過ぎたあたりで眠くなったので原稿を書くのはやめ。 つづく
●写真・文/川上信也
■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami
■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →☆