column
November 19, 2022
シャッター音を傍らに
scene35 【11月】この素晴らしき世界
福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya
【11月】この素晴らしき世界
朝起きると周囲は霧に包まれていた。
くじゅう飯田高原の朝の冷え込みはそれほどでもなく、
薄着のままカメラを取り出して周囲を歩き始めた。
遠くに見えるはずのくじゅうの山々は全く見えない。
鳥のさえずりも聞こえてこない静かな夜明け前のひとときだ。
ススキに囲まれた道を登って高台に上ると、高原の田畑が青白い霧の合間からうっすら見え隠れしていた。
やがて太陽が昇ると、高原の霧は光から逃げるようにいっせいに動き始め、
隠していた山肌を駆け抜けるようにどこかへと消えてゆく。
そして霧が走り去ったあとには燃えるように紅葉した木々が姿を見せる。
もう人々が目覚めた頃には由布岳も巨大な傘の下から姿を見せ、由布院の街並みが朝日に照らされてゆく。
秋という季節は目覚めてから数時間の間に次々と美しい世界がやってくる。
こんな風景に次々と出会った日には、心の中でよく『What A Wonderful World!』とつぶやく。
もうおなじみのフレーズだろうけれど、ルイ・アームストロングの名曲の題名だ。
なのでつぶやくというより口ずさんでいるのかな。
「この素晴らしき世界」は身近にある。
僕がこの秋の日に出会ったくじゅうの風景だってもちろんそうだし、
散歩中の何気ない田舎道、人々の普段の日常だって見方によっては素晴らしき世界の一端だ。
今のような大変な時代だからこそ響く歌なのかもしれない。
これからも写真を通して「この素晴らしき世界」を伝えていければなあ。
そんなことを想った素晴らしき秋の一日。
What A Wonderful World!
●写真・文/川上信也
■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami
■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →☆