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column

September 06, 2021

シャッター音を傍らに
scene22 【9月】 ついでの一枚

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

記録用に撮っておいた一枚が意外と好きだったり




【9
月】ついでの一枚


仕事で風景写真を撮影することが多くなり九州中を巡っている。

もちろん去年からはなかなか出かけるのも難しくなり、
仕事も中断していたのでお家時間が多くなってしまったけれど、
それでも仕事は再開していろいろと気を付けながら九州を巡っている。

もともと僕は風景写真から写真の世界に入ってきたので、
山小屋勤務時代に得た構図の基本やバランス感覚が大いに役に立っている。

ここ10年ほどは人物撮影、お店の撮影、料理の撮影など様々なジャンルの被写体と向き合ってきたけれど、
やはり基本は風景写真で得た感覚だろうと思っている。
なかなか口で言い表すのは難しいけれど、気持ちのいい構図っていうものがやはりある。

よく偉い(といわれる)先生方が黄金比だとか
画面を分割してここにこれを何割とか何とか言っているのを耳にすることがあるけれど、
あんなものに惑わされていてはダメですはい。

被写体によってそれは様々であるし、空を思いっきり画面に入れたり
臨機応変に気持ちいい写真を求めていった方がいいというのが最終的なところ。
もちろん僕もフィルム時代からいろいろと経験してきた結果ということであるけれど。


久住高原、月の入り



そしてこれもまた不思議なもので、
本番の撮影が終わって、ついでにじゃあもう一枚と、
いわば適当に撮影した1枚がとても良かったりする。
僕もどこかで基本にとらわれすぎているのかもしれないなあと思う瞬間だったりする。しみじみ。


先日、北九州の岩尾海水浴場でのこと。
明るい日差しが降り注ぎ、空気はどこまでも澄み、
北九州とは思えないハワイのような(言いすぎかな)明るく美しい夕焼けが広がっていた。
僕は夢中でシャッターを押し続け、仕事で提出する写真もとても満足いくものが撮影できたのだった。

周囲は暗くなりヘッドライトを頼りに車に戻ってきた。
すると駐車場からは宵闇の海が目の前に広がっている
まあとりあえずこちらも撮っておこうかということで、三脚をセットしてバルブ撮影してみたのだった。

仕上がった写真を見てみると、構図が整っているわけではないけれど、
僕個人の作品としてはとても気に入った一枚となっていた。
風も感じられるし、福岡らしく飛行機の軌跡もいくつか見えている。
そして波打ち際には一番星として輝いていた星の灯りが砂浜に映し出されている。
やや赤みを残した藍色の空には隠れていた星が瞬いている。
もうちょっと構図を整えておけばよかったなあと思わないでもないが、
この適当さ加減がこの時の僕の気持ちまで映しているようでとても気に入っている。

仕事から離れてホッと一息ついて
安心して適当に撮った一枚が心に残るというのはよくあるこだ。


車に戻って再び撮影

 

また先日は耳納連山にあるグライダー山へと撮影に行った。
空気の霞が激しくて思うような撮影はできなかったけれど、
せっかく来たのだからと久留米方面にレンズを向け、適当に太陽を構図に入れて撮影した。
結局この日の一番のお気に入りの一枚となった。

基本は大事だけれど、それにとらわれすぎてもいけないという事は
こういったついで写真の数々でも実感している。
基本があってこそ適当が生きるということだろうけれど、
写真って奥が深いなあと実感する日々だ、ほんとしみじみ。


遠くに筑後の流れ

 

とはいえ僕は基本的に適当に生きている。
今までの人生において基本も何もあったものでもないので、
撮影の基本の前に生きる基本を実感したほうがいいのかもしれない。

もう手遅れかなとしみじみ。


帰り道の吹上浜にて

 

 


●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →