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column

July 22, 2026

レンズの向こう側
episode10 【7月】知らない街を歩く

一枚の写真から呼び起こされる
鮮やかな記憶

自然の風景、時には街、人々
レンズを覗いた時の思い…

それらを
散りばめたフォトエッセイ

by kawakami shinya
 

広島県西条市

 

【7月】知らない街を歩く

久しぶりに九州以外での仕事が入り、広島へと向かった。
広島駅から在来線で1時間ほどの西条町。初めての町だ。

到着した日の夕方、駅前のホテルにチェックインしてから周辺を歩いてみた。
このようなすき間時間がとても好きだ。
がっつり観光というわけでもなく、ただ次の日の仕事までの時間、ぶらぶらと知らない街を歩くだけ。
それは何だかトランジットのようなフラフラとした時間。

事前に情報を得ているわけでもなく、ただ思いつくままに歩いてゆく。
九州内では多くの町をすでに知っているということもあるので、この知らない街を歩くという感覚はとても新鮮だ。
西条という町は日本有数の酒どころとして知られているらしく(それも到着して知った)、駅近くに酒蔵がいくつも並んでいる。
裏道に入るとそれらの酒蔵の白壁に囲まれ、長い歴史を感じる風情が漂っている。
するとこの雰囲気、どこかで味わったような気がしてきた。
写真を撮りながら旅の記憶をたどっていくと、それは中国の周荘という町を巡っていた時だろうか。
約30年前、20代の僕は全く知らない周荘という小さな町にオンボロ路線バスでやってきて、白壁に囲まれた町を歩き回っていたのだ。
それらは酒蔵ではなく民家であったように思うけれど、
それらの白壁に囲まれてフィルムカメラで必死に写真を撮り続けていた自分を思い出していた。

あの頃に比べれば今はずいぶん落ち着いて、撮る枚数もほんの数枚という時代になったけれど、
それでも知らない街を歩くという高揚感は、あの当時の僕の熱量のようなものを思い出させてくれるとてもいい機会となった。


一枚の写真にはその前後にストーリーがあるからこそ奥行きが生まれ、
見る人は僕自身も含めてそこに人間的な何かを感じ取ったりもできる。
そして僕自身には多くのバグ(不具合)があるわけで、写真の構図だって完璧じゃないし、この文章だってほんと拙いものだ。
もしかするとこのバグこそが今の時代とても大切な要素なのかもしれない。
それはとてもAIには真似することはできない貴重な感覚だ。

そんなことを考えながら知らない街でシャッターを押す。
何だかとてもいい時間だった。


中国 周壮にて 1999



●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
現在は『西鉄カレンダー撮影も担当。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami


■前シリーズ
『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月) →
*『シャッター音を傍らに』(2019年7月~2025年7月) →