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column

May 14, 2026

レンズの向こう側
episode08 【5月】5月の待ち時間

一枚の写真から呼び起こされる
鮮やかな記憶

自然の風景、時には街、人々
レンズを覗いた時の思い…

それらを
散りばめたフォトエッセイ

by kawakami shinya

 

いろは島は霧の中

 

【5月】5月の待ち時間

夜明け前から佐賀県唐津市にある大浦の棚田の撮影へと向かった。
福岡は快晴予報だったので、どんないい風景が広がっているだろうと期待を膨らませながら運転していると、
二丈町あたりから濃霧注意報となり、棚田に到着すると辺りは真っ白になっていたのだった。

棚田は伊万里湾に浮かぶ「いろは島」を望む場所にあるけれど、いろは島どころか棚田さえも見えない濃霧。
しかし天気予報は晴れだったので、希望を持って霧が晴れるまで待つことにした。
そして結果的には霧が晴れてくれて撮影できたのだが、午前6時過ぎに到着して霧が晴れたのが9時前。
3時間弱ほど霧の中で待っていたということになる。


その数日後、宮崎県霧島の御池の撮影に行ったのだが、こちらも朝から晴れの予報にもかかわらず一面曇り空。
湖のほとりの駐車場に待機して太陽が顔を出してくれるのを待っていた。
結果的に朝から夕方までこの場所で過ごすことになった。

どちらもまあまあ長い時間を待っていたことになるけれど、この時間が苦痛だったかというとそんなことはまったくなく、
霧のいろは島ではゴッホの絵のような橋が現れて感激したり、
新緑の御池では車で本を読んだり音楽を聴いたり、
売店でソフトクリーム食べたり、遊歩道ではアナグマと鉢合わせになったり、
むしろ撮影よりもこの待ち時間を楽しんでいたような気さえしている。

これは一日の中の余白のような時間ということだろうか。
おそらくせっかちな性格ならじっと待つことになんて耐えられず、
いろんな場所へと移動ばかりしていたに違いない(僕も以前はそうだった)。

そんな余白を楽しむことができはじめた僕も、まあまあ成長したかな、などと思いながら過ぎてゆく5月の待ち時間。
こんな気候のいい期間は今年もおそらく短いだろうから、なおさらかけがえのない時の流れのように思えてくる。


これからもこのような時間を大切にしていきたい。


アナグマがこっちに向かってくる

 

 

●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
現在は『西鉄カレンダー撮影も担当。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ
『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月) →
*『シャッター音を傍らに』(2019年7月~2025年7月) →