column
April 15, 2026
レンズの向こう側
episode07 【4月】ありえたかもしれない人生
一枚の写真から呼び起こされる
鮮やかな記憶
自然の風景、時には街、人々
レンズを覗いた時の思い…
それらを散りばめたフォトエッセイ
by kawakami shinya

■福岡県糸島市 2026-3
【4月】ありえたかもしれない人生
春になるといつも思い出すことがある。
1990年、僕が四国松山から九州福岡にやってきた頃の事だ。
大学入学だったので菜の花が咲き、桜の花びらが舞っていたのを覚えている。
あれから36年経った今、思い出すのは新しい土地での不安や期待の思い出ではなく、もし福岡に来なければどうなっていたのだろう、ということだ。
浪人生活はしたくなかったので、とりあえず数打てば当たるということで、あちこちの大学を受験した。
第二次ベビーブームの世代ということで、ありえないような倍率で東京、関西方面は全滅だったのだが、福岡と島根、2校に合格したのだった。
もちろん合格はとてもうれしい出来事だったけれど、生まれて初めて大きな人生の選択に直面することとなった。
福岡と島根、果たしてどちらへと行くべきなのか。
島根は国立大学であったから親からは島根を推す意見もあったけれど、プロ野球球団のある街なんて夢のような世界、という若者らしいあこがれの感情が勝り、結局福岡を選んだのだった。
今となっては福岡を選択したから多くの魅力的な人たちとの出会いがあり、写真の仕事を続けることができてとても満足しているけれど、あの時もし島根を選んでいたら果たしてどんな人生を歩んでいたのだろうか。
それは「ありえない」ではなく、「ありえたかもしれない人生」だ。
島根に行っても写真をやっていたのだろうか。
くじゅうではなく宍道湖に魅せられて何かしらの活動をしていたのかもしれないし、まったく違う分野の仕事をしていたのかもしれない。
いつかそんな不思議な感覚を抱きながら島根を旅してみよう、と春が来るたびに思うのだけれど、結局は行かないまま36年。
九州に来てよかったなあと心から感じながら今年も春の風景を眺めている。

■福岡県久留米市 2026-4
●写真・文/川上信也
■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
現在は『西鉄カレンダー』撮影も担当。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami
■前シリーズ
*『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月) →☆
*『シャッター音を傍らに』(2019年7月~2025年7月) →☆




