column
October 02, 2025
レンズの向こう側
episode02 【10月】 幸せな予感
一枚の写真から呼び起こされる
鮮やかな記憶
自然の風景、時には街、人々
レンズを覗いた時の思い…
それらを散りばめたフォトエッセイ
by kawakami shinya

翼の向こうにハワイが見えてきた
【10月】幸せな予感
飛行機に乗る時は、窓側にするか通路側にするかは人によって好みは分かれるだろうけれど、僕はいつも窓側を選んでひたすら眺めを楽しんでいる。
もう20年前の話になるけれど、福岡空港発北海道千歳空港行きでのこと。
いつものように窓側に席をとり、窓によりかかるようにして遠ざかる街並みや、すぐそこにある雲をずっと眺めていた。
すると女性の客室乗務員(当時はスチュワーデスさんという魅力的な呼び方があった)の方から、
「お客さま、よほど飛行機がお好きのようですね」
と声をかけられたのだ。
お客が少なかったということもあったとは思うのだけれど、そんな風に声をかけられた事は初めてのことだった。
彼女は「ちょっとお待ちください」といって立ち去り、しばらくして「これをどうぞ」といって搭乗の機種、ボーイング777が写ったポストカードを持ってきてくれたのだ。
そこには便名、速度などが手書きで書かれていた。
『JL582 JA8941 440mile/710km FLT TIME 2+20 ご搭乗ありがとうございました』
僕はものすごくうれしかった。
この時の旅は、山小屋での勤務を終えてこれから僕はどうなってゆくのだろうという大きな不安を抱えながらの旅だったので、このスタートでの出来事は涙ぐむほどうれしかったのだ。
旅先でのほんの些細なうれしい出来事は、とても柔らかく優しい記憶としてずっと残ってゆくもの。
僕は今でも飛行機に乗るとあの時のことを必ず思い出す。
すると気分がすっと晴れて、とてもいい写真が撮れていい旅になるだろうなという予感がしてくる。
両親とハワイに行ったときも、あの時と同じくJALの飛行機だった。
そしてもちろん幸せな予感は大当たりとなった。
あの旅から20年経った今でも時々両親とハワイでの旅話で盛り上がっているので、ずいぶんと長い余韻を楽しんでいる。
ハワイ島が見えてきた瞬間のあの感激は忘れられない。
毎年行こうとか言ってたのになぁ。
●写真・文/川上信也
■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
現在は『西鉄カレンダー』撮影も担当。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami
■前シリーズ
*『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月) →☆
*『シャッター音を傍らに』(2019年7月~2025年7月) →☆




