column
April 29, 2025
シャッター音を傍らに
scene58 【4月】春の朝を迎えて
福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

春の山庭にて
【4月】春の朝を迎えて
ようやく寒すぎる冬が終わったと思ったらすでに桜は散り、
つつじは満開を迎えていて半袖で過ごす日もあった。
花粉症に苦しむのでこの時季は早く去ってほしいとも思っているけれど、
もう少し冬から春、そして夏への移ろいをゆっくりじっくり味わいたいもの。
ここ数年の移り変わりはとても慌ただしい。
僕自身も春は移動の日々が続いていた(異動ではなくあくまで移動)。
桜の撮影で九州各県をめぐり、もういい加減見飽きてきた頃に白丹に滞在して熊本の取材、
そして四国松山の実家に帰省し、いったん九州に戻ってから再び仕事で四国へ移動して戻ってGWを迎えている。
桜の撮影がはるか夢のかなたのように思える。

桜並木を何度も通過
こうした春の移動の中で、様々な風景を見たり本を読んだり人と話しながら、
新たなる気持ちのモチベーションを得ることができればと何となく思っていた。
この頃、というかここ数年、新たなる制作意欲というものが停滞気味で、
ある意味ずっと同じレールの上を特に力もなく進んでいるような感覚があった。
もちろんそれはそれで進んでいるわけだからいいとは思っているけれど、
ちょっと物足りないと感じてしまうのは新たなる自分自身の制作から遠ざかっているからではないだろうか、
などとスタートの春らしくそんなまじめなことを感じたのだった。
だからといって意識的に何かを新しく始めるというわけでもなく、
この春の空気の中で自然と何か湧き上がるものがあったらしいなあと、ぼんやり考えていたのだった。
あー春の一日は今日も過ぎてゆく。

四国から九州へと渡るフェリーにて
そんな時に松山からの帰省中に宿泊した大分県くじゅうの小さな宿で迎えた朝のこと。
窓の向こうにきれいな朝焼けが見えていた。
かなり冷え込んでいたけれど、僕は半袖で宿の庭に出て朝日が昇るのを待っていた。
同じく早起きの小鳥たちが庭のどこかでずっと鳴いていて、夜明け前の庭はとても賑やかに朝の光を待っていた。

朝焼けが窓からみえた
やがて太陽が顔を出し、透明な黄色の光が庭に滑り込むように届き始める。
そして花々も微笑むように輝き始める。
僕は自然とカメラのシャッターを押しながら光に包まれる心地よさを体の芯から感じていた。
おそらくいつもと変わらぬ朝だろうけれど、こんな朝があるからこそ世界が好きになり、
その美しい流れの中で写真を撮りたいと思うんだなあと改めて強く思ったのだった。

山庭の朝
この日の朝に感じたことを忘れないように、
数時間後に僕の写真集をずっと担当してもらっている編集者に電話し、思いついた新たなる写真集の構想をお伝えした。
実はこの宿はこの編集者の紹介で、もうずっと前から知っている宿なのだ。
宿泊したのは久しぶりだったけれど、久しぶりだったからこそとても新鮮で、新たなる感じ方をしたのかもしれない。
うーんこれが春のパワーなのかな、もしかして。
きっと多くの人たちがこの時季になるとこんな力を感じているのかもしれない。
さて、新たなる気持ちでシャッターを押していこう。

実家のバラが咲き始めていた
●写真・文/川上信也
■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami
■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →☆




