想いにふれる メイドイン

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column

November 14, 2024

シャッター音を傍らに
scene54 【11月】坊がつる On My Mind。

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

1999年撮影 坊がつるから望むくじゅうの山々




【11
月】坊がつる On My Mind。


坊がつる。
ここは僕が5年間、山小屋勤務で毎日のように眺めて写真を撮り、
そして犬の散歩をしていた広大なる湿原だ。

一眼レフカメラを購入して本格的に写真を始めた場所でもあるので、
僕にとってはちょっとした聖地ということにもなるだろうか。

休憩時間になれば目の前が坊がつるなんだからそりゃ写真始めることになるのが自然の成り行きだ。

吉部登山口から坊がつるを目指した。22年ぶりにここで眺める秋だ。
吉部登山口から坊がつるまでは約1時間半。
最初の15分ほどのかなりキツイ坂を登ってしまえばあとはわりと平坦な登山道が続くので、
坊がつるへの最短コースだろうと思う。



最初の難関、この坂さえ登れば


途中、「暮雨の滝」と呼ばれる小さな滝がある。
ここも紅葉の季節に来るのは22年ぶり。

当時の経験からこの季節は朝の10時過ぎに滝壺付近に光が届き始める。
到着は9時過ぎだったのでしばらく待つことにした。
滝つぼで1時間ほどボーっと待つ。ここも犬の散歩でよく来ていた。

夏はアルバイトの学生とやってきて泳いだりもしていた。あー若かったなとしみじみ。



紅葉に包まれた暮雨の滝



そしてさらに1時間ほど歩いて坊がつるに到着。

懐かしい山々のかたち、小さな川の流れにススキの擦れ合う音。
木々の形がちょっと変わったようにも思うけれど、あの頃とほぼ変わらない。

 

紅葉した山肌と大船山

鳴子川は筑後川の源流の一つ

 

僕自身はずいぶん変わったように思う。
まあ22年も経てばそりゃ変わるだろうなあ。

当時は山小屋で飼われていた雑種犬ポリ君と一緒にこの辺りを駆け回って写真を撮り続けていたけれど、
その写真を今後どうすべきかなんて事はさっぱり分からなかったし、
山を降りたらどうやって生きていくべきかなんて考えるだけで不安だったので、
考えるのは後回しにして、とりあえずシャッターを押し続けていた。



草紅葉とポリ君 2000年撮影



とりあえず今の僕は写真で何とか生きていくことができて幸せなことだなあと日々感じているけれど、
あの頃のいわば前向きな将来の不安と違い、
今は老後をどうするかなんてことを仲間と考える年齢になってきていることに愕然としてしまう。

ポリ君はとっくにあの世に行ってしまってるしなあ。
世界の先行きも何だか不安に満ちているようでもあるし。
むしろ普段そんなことを考えさせてくれる場所こそが坊がつるということだろうか。

坊がつる木道から眺める大船山と麓の紅葉の美しさはあの頃と変わらない。
変わらないものと変わってゆくものが僕の中で自然と混じり合う場所。

次に来る時はどんな想いと共にやってくるのだろうか。
こういう場所が福岡から車と徒歩で約4時間の場所にあるというのは、
ちょっとした心の支えとして日々の生活に潤いを与えてくれている。



今月の坊がつるとくじゅうの山々




●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →