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column

October 05, 2021

いいにおいのする台所研究所
第32回 「誕生日にはケーキを焼くの」後編

ワクワク。

場所の名前は、「いいにおいのする台所研究所」。
ここで私が皆さんと食べものの話をするのです。
誰に気兼ねすることなく、
最初から最後までずっと食べものの話をするのです。

ドキドキ。

ここでしばらく時間をかけて趣旨説明をします。
これを読んで、そういうことなら私も食べものの話をしに行きたいな、
と思ってくださったらば、あなたもどうぞスタジオへお越しください。
by natsuko kawakami






32
)「誕生日にはケーキを焼くの」後編


さてさて。
1週間前に注文を入れた生協から、オーム乳業の純生クリーム(48%)が2パック届いた。
1週間前の時点では、どんなケーキを作るかまだ考えていなかったのだが
とりあえず生クリームは使うだろう、と見切り発車していたがここにきてそれが裏目に。

今年はフレジェを作るのだ。
シャインマスカットの。

フレジェとは、1センチ厚ほどのスポンジを2枚用意し、その間にいちごを並べ、
カスタードとバタークリームを合わせたムースリーヌというクリームで埋める
フランスのショートケーキなのだ。

ということで、フレジェに生クリームは使わない。
トップに飾りでちょっと使ってもいいんじゃない?という程度だ。とても2パックはいらない。
けれど賞味期限を考えると、何か他のものに、という選択肢もあまりなかった。

仕方ない。なんとかフレジェに生クリームをぶっ込んでやるぞ。
私はいつもこんな感じで、あるようなないようなケーキを夢想し、勝手に作る。
家族のぼんやりとしたリクエストを聞くと、結果的に本に載ってないものになるのだ。
夫が「表面がパリパリチョコのショートケーキ」と言うので奔走したこともある。ないよそんなの。
できあがったのは、うまいけど、すごく食べにくいケーキであった。

ネットで調べて、図書館にも行って、
とっても忙しいケーキ職人である友人にもしつこく聞いて、
今までの自分の乏しい経験と、果てしないシミュレーション。
ここをこうしたらこうなるはずだから、とか、
あそこはこうなるとやばいからこうしておくといいはず、とか。

なんせ、スポンジやクリームのレシピは調べればわかるけど、肝心の組み立てるところの説明書はない。
私が勝手に夢想したケーキだから。あはは。
そして、組み立て系の冷菓というのはデリケートでいろいろ厄介なのだ。


今回の懸念点は二つ。
クリームの部分をババロアクリームでやってみたいのだが、強度が保てるのか。
敷き詰めたシャインマスカットの間にババロアクリームが隙間なく行き渡り、断面がきれいに出るか。

7割いける、あとの3割わかんねぇ。
くらいの、またもや見切り発車で出発進行〜〜〜。
(考えてみたらアタシの人生見切り発車ですわ大体が)


まずはスポンジ。
直径15センチのできあがりにしたいのだけど、
スポンジは焼くと縮むので大きめに焼いてから切って丸い形に整える。
上下の焦げ色がついたところもカット。ここが残ってるとなんか見栄えがよくない。
切れ端はまとめて冷凍しておやつにする。

 









次いで、15センチの枠に紙を敷いてそこに一枚目のスポンジを敷き込む。
紙とスポンジの隙間はよろしくない。クリームが柔らかいと、この隙間に流れ込んでしまう。はず。
しかしあまりクリームを硬くすると今度はシャインマスカットの間に流れ込まないのでそれも悪し。

 

 



スポンジにはラム酒のシロップを打つ。
これやっとかないと流し込んだクリームの水分をスポンジがどんどん吸ってしまい、
クリームはパサパサ、スポンジはぐっしょりしてしまう。





50度洗いして水分を拭き取り、変色を避けるためヘタの部分を切り取ったシャインの皆さんを並べる。
特に側面ね。紙との隙間をなくす。ここがきれいに出るかどうかが分かれ目なのだ。








懸念のババロアクリームは、数日前にケーキ職人の友人が作ったケーキからヒントをいただいた。
友人のアドバイスで、強度を保つため、ゼラチンを気持ち強めに使うことにした。
ただ、ここまでびっちりシャインマスカットを敷き詰めているので、強度の問題もなかろうという結論に。

ここまでの工程でも、素材はいちいち冷やしておくことにする。
そうしないと、ババロアクリームを流し込むときに素材の温度が高いとクリームがだれてしまい
紙やスポンジの隙間に入ってしまうのではないかと読んだからだ。

さて、もう一枚のスポンジを乗せて枠にぴっちりとはめ込んでやっと一息。
ここまでくればゴールは見えた。
ダメおしで全体をしっかりと冷やし、最後にシャインマスカットの薄切りとジュレを敷き詰めるのだ。
さ、クリームは余ったからババロアカップでも作って、冷やしておこう。

ノオオオオオオオオ!

いかんいかん!
よく考えたら、クリームを薄く塗って、その上にシャインマスカットの薄切りを並べルンだった。
ババロアカップ作っとる場合ではないヨォ!!!!!ノンノンノン!

慌てて、固まり始めたババロアカップを一つ冷蔵庫から出して、
無理矢理薄く伸ばしてケーキの表面を覆った。
危ねぇ危ねぇ。
これだから素人は。

表面のクリームが固まったら、薄く切ったシャインさんたちをきれいに並べる。
端っこは端っこ用に型の丸みに合わせて切ってそっと添わせる。
スポンジ用のラム酒シロップにゼラチンを足して、表面に流して、最後にもう一度冷蔵庫で固める。

下から抜ける型をそっと押し上げて、巻いた紙を剥がすと……。はい!完成!
なんとか、シャインマスカットがきれいにクリームで汚れることなくこっちを向いている。
上のスポンジと下のスポンジも平行を保ち、ババロアクリームも硬すぎない。

あー、面白かった!
もはやケーキ作りはアトラクションだ。







私のケーキは、普通にいろんなレシピを組み合わせて作ってるんだけど
きび砂糖を使ってるせいか、甘さがとてもやさしくて、アラフィフの私にはちょうどいい。
なんというか、最近市販のケーキがちょっと重い。
最初、おいひ〜い!と思っても、最後の方になるとうむむ、となってくる。
私のは、最後の一口がちょうどいい甘さ。
自分で言うけど、これがいいのだ。



つづく・・・
>>>次回は10/19頃に更新予定です。


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●写真・文/川上夏子

■■プロフィール■■

●川上夏子(かわかみ・なつこ)
1974年福岡生まれ。グラフィックデザイナー。ではあるけれども、著作があり、スタイリングもやるし、料理家さんの日雇いアシスタントもやります。
日々マッキントッシュの前に座りながら、頭の中はほぼ「何を作り何を食べるか」でいっぱいであります。
アラフィフの入り口に立ち、いよいよ人生の総まとめとして「食べものの作り手」として本格的に仕事をしていきたいと考えています!趣味は健康管理。
[著書
『小夏を探す旅』(2020年)
『ぼくらのいえができるまで できてから』(2016年)
『福岡のパンとお菓子の小さなお店』(2013年)
『福岡のまいにちごはん』(2012年)