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column

August 05, 2021

シャッター音を傍らに
scene21 【8月】 運転!僕の車

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

この頃の車窓は入道雲




【8
月】運転!僕の車


毎日のように車を運転している。

運転している時はとてもリラックスしているせいか、普段考えないようなことも考えている。

僕は車の運転がとても好きなのだろうと思う。
好きでなければやっていけない仕事をしているというのもあるけれど、
密室に長時間というのは、今の時代特に安全でありがたい空間だということもあるのかもしれない。


橋の上にて

断崖のトンネルへ



ダッシュボックスにはいつも犬の写真を入れている。

過去に乗ってきた車にもずっとこの犬の写真をどこかに入れていた。まるでお守りのように。 

かつて山小屋勤務時代に山小屋が飼っていた雑種犬・ポリ君だ。
撮影にいつも同行してもらい、共に坊がつるをウロウロして山に登り、
くじゅうの美しい風景に何度も遭遇してきた。
まるで撮影地へと導くようにいつも前を走っていた。
僕がまだカメラ初心者だったころの話だ。

このポリ君と何度か車に乗ったことがある。
それはポリが山小屋から登山口まで脱走した時のこと。
そこまでは徒歩で2時間ほどかかる距離なのだが、
僕はいつも運搬車で迎えにゆき、そして乗せて帰るのだった。

最初は後部座席に乗せていたのだが、ヒョイと飛び越えて助手席に座るようになった。
そしておとなしくじっと風景を眺めているのだった。とても幸せそうな表情で。

あの頃のポリと共に過ごした楽しい撮影時間を忘れないように、
ダッシュボックスに写真を入れている。

それは初心を忘れないようにというポリからのメッセージなのかもしれない。


かつて本に登場した助手席に乗るポリ君

 

今日も撮影地へと出発し、これから出会う風景を想像しながら運転を続ける。
好きな音楽を聴きながら時々ポリのことを思い出す。
やっぱりあの犬はドライブが好きだったのかな。
脱走したあとに車に乗り、僕と同じように普段考えないことを考えていたのかもしれない。
もしかするとドライブしたくて脱走していたのかもしれない。

一度「お前ドライブが好きなのか?」と助手席のポリの頭を撫でたことがある。
するとウンウンとうなずいていた。いやワンワンだったかな。


ポリがよく脱走した登山口付近



こんな思い出をしんみりと思い出すことは普段の生活ではほとんどない。
それは運転という時間がもたらしてくれる貴重な時間だろうと思う。

振り返るべき記憶、留めておきべき記憶を、
過ぎ去ってゆく風景を眺めながら改めて心に上書きしてゆく。

運転の時間ってやっぱりいいなあ。


道の先に馬

 


なおこのエッセイの今月の題は『ドライブ・マイ・カーにしようかと思っていたけれど、
話題の小説や映画を意識しただろうとか、
ビートルズみたいでかっこいいなんて思われても困るので(困らないか)、
とりあえず直訳してみた次第。 

もちろん僕だって小説のように運転中に女性のことも考えているけれど、
なんで犬の事ばかりになったのかな。ま、いっか。


Drive My Car

 

 


●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →