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column

April 05, 2021

シャッター音を傍らに
scene17 【4月】 トランジットなる日々に

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

車窓




【4
月】トランジットなる日々に


仕事で広島に行っていた。
いつものように新幹線からの車窓をぼんやり眺め、
時々パンを食べたり本を読んだりしながら広島に到着し、お好み焼きを食べて撮影現場へと向かった。

取材場所は呉市内のお店だったけれど、港町という雰囲気を感じることなく
撮影を終了して広島駅へ戻ってくると、
やはりせっかく来たのにお好み焼きだけというのは空しいなあということになってくる。

お昼過ぎだったので帰りの新幹線まではかなり時間がある。

ということで『ひろしま美術館へと向かった。
広島でのこういった空き時間には何度か足を運んでいる。
あまりにもコレクションが素晴らしくて毎回感激してしまうので、できるだけ行くように心がけている。

 

ひろしま美術館の印象的な天井

 

『ひろしま美術館は路面電車紙屋町東電停で降りると歩いて5分ほどのところにある。
木々に囲まれたとても気持ちのいい場所だ。

案内には「とっておきの日本画と西洋洋画」なる企画展示をしているとのこと。

するとこれが驚きの豪華なる展示になっていて、
ゴッホ、セザンヌ、ゴーギャン、マティス、ピカソ、ルソー、ユトリロなどなど、
おなじみの西洋の画家の絵もあれば、
東山魁夷、平山郁夫などの日本画家の絵も展示されている。

これほど豪華な顔ぶれが同じ場所にそろって展示されているなんてすごいことだ。
しかも撮影OKとのことで、訪れた人たちはスマホで気に入った絵の前で撮影している。
この美術館のコレクションということだからだろうか。

 

 

美術館中庭も気持ちがいい

 

ここにくるといつも静かに見入ってしまう絵がある。

シスレーの『サン=マメス
シスレーという画家は印象派の中でもまったく目立たないような感じだけれど、
どれもしっかりと構図されていて一切ぶれがないような絵ばかりだ。

色づかいも筆のタッチもずっと変わらないし、
描かれた場所が住んでいた近所ばかりというところもストイックだ。

『サン=マメスは穏やかなる日の川辺からの眺めで、
みずみずしい空の色、川の色、しっかりとした構図、どれもすんなりと心に入ってくる。

手前にはとても勢いのある雑草らしきものが描かれていて、そのさりげなさが心地いい。
今回もなんとなく端っこで控えめに展示されているところがシスレーらしい。

 

シスレーにモネにルノワール



そして東山魁夷『冬の沼

ちょうど東山魁夷の名著風景との対話という本を新幹線で読んでいたので、
こんなにすぐ本物の絵に巡り合えるとは思ってもいなかった。

風景写真を始めた頃から好きだった画家なので、
生き方や自然の接し方、いろいろな事を絵を通して教えてもらっている。

写真でも絵でも時代時代で様々な流行があり、SNSではかなり奇をてらったものが目立ったりもするけれど、
地味で忍耐強いものこそが自分のものを創り上げるということを東山魁夷の絵はいつも教えてくれる。

 

 

入口の向こうに東山魁夷が垣間見える

 

帰りの新幹線では、東山魁夷の画集に付属していた音楽『カンガサーラの夏の日を聴きながら福岡へ。

申しわけないけれど仕事の印象はほぼ忘れている(もちろんちゃんと仕事はしました)。
仕事が終わって帰りの列車までの空き時間、
そんな空港でのトランジットのようなフワフワした宙ぶらりんのような時間にこそ、
これからの人生にとってスパイスとなるような刺激が含まれていたりする。

これからもトランジットなる日々に
印象派の絵のような豊かな色彩を与えていければと思っている。

 

車窓その2

 

 


●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →