想いにふれる メイドイン

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column

February 02, 2021

シャッター音を傍らに
scene15 【2月】 シャッター音はサンバーと共に

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

この車と共に写真の道を走ってきた




【2
月】シャッター音はサンバーと共に


僕が5年間におよぶくじゅうでの山小屋生活終え、再び福岡での生活に戻った2002年のころ、
撮りまくっていたくじゅうの写真を眺めながら、
好きな写真を続けていくにはやはり車が必要だということになってきた。

山小屋時代のように毎日朝起きれば目の前に大自然が広がり被写体だらけ、
なんてことはもうない。

各地を自由に動きまわりながら写真を撮っていきたい。
カメラと同様に車は大切な道具の一つだ。

 

こんな車窓を夢見ていた



そしていろいろと迷ったあげくにスバルのサンバーという車を購入したのだった。

車中泊ができ、運転が楽で小回りがきき、
エンジンが強いということが条件だったけれど、
それらをすべて満たす車がスバルのサンバーだった。

はっきりいってデザインはいたってフツーだ。
犬をモチーフにデザインされているというけれど、
視覚的に認識されるのに数日はかかるだろうと思われるほどフツーすぎるデザインだ。

色はベージュで柴犬のようだなと思っていたけれど、
友人からは食パンのようだと言われた。まあ確かに。

 

塚原高原にたたずむサンバー

 

しかし車に詳しい方の話によると、この車は昭和30年代から続くスバルの名車であり、
リアエンジン四気筒という軽自動車ではとても珍しいスペックで、
農道のポルシェと呼ばれているとのこと。

何でポルシェでしかも農道なのか、その真意は今でもよく分からないのだが、
とにかく信頼度が非常に高い車ということは確かのようだった。


そして僕の写真生活は、サンバー購入から激変してゆく。
その年に山小屋時代の日々を綴った本の出版が決まり、翌年には出版。
同時に写真展を開催することになり、このサンバーは大いに役立つこととなる。

本を大量に積み込み各地のお店へ営業に出かけたり、
時には軒先で売ったり(まるで寅さんだ)、
天草の額屋さんで大量の写真用額を購入して運搬したりと大活躍だった。

そして写真展を無事に開催し、そのあたりから様々な仕事が舞い込むようになる。
タウン情報誌の巻頭グラビア連載から始まり、その後は毎月九州中を取材撮影でめぐる日々が訪れる。
早朝に撮影機材を積み込み、編集者を迎えに行き、
夜明けと共に都市高速に乗って九州各地を巡ってゆく。

鹿児島や宮崎では取材先の方に
「えー、まさかこの車で来たわけ?」とびっくりされることも多かったけれど、
農場関係者からは「おおっサンバー!かっこいいね」と
普段言われない事を言われて運転席をお見せしたりしていた。

さすが農道のポルシェ!

 

とにかく九州中の道を走りまくっていた



仕事のついでに九州各地の作品撮影も進み、
何度となく車中泊を繰り返しながら大自然の中を駆け抜けていった。

そして10年目を迎える頃には走行距離は34万キロを超えていた。

 

目標は40万キロだった



さすがにトラブルも多くなり、寒い日にはオーディオが作動しない。

エンジンが暖まっておよそ3時間半後に復活するので、
福岡から出発するとだいたい八代あたりで突然音楽が鳴りはじめ
同乗者をビックリさせることになる(それが結構楽しかったり)。

またパワーウィンドウもスイッチを押して10秒後にようやく作動するという非常に鈍感体質な車となった。
またエアコンは効いたり効かなかったり。

もう無理だということで2台目を購入。
ほぼ同じ型のサンバーで、ベージュ色から青色になった。

ちなみにサンバーというのはインドに生息する鹿の名前だという。
犬をモチーフにした鹿の名前の車というので何だかややこしい。
しかし道で鹿と出会ったときは仲間のように感じたものだ。

 

くじゅうでは毎朝、鹿と出会っていた



今年でこの青色サンバーも8年目となり、走行距離は25万キロほど。
初代と同じく九州中を巡ってきた。
そしてこれも初代と同じくエアコンやオーディオの不調が現れはじめた。

特にエアコンは猛暑には大変だ。
なじみの編集者は「今日はエアコン効くかなー」とつぶやきながら乗り込み、
「やっぱり効かないね」と汗だくにさせてしまう。
とても申し訳ない。

ほかにも何やらキュルキュルという変な音が時々するけれど知らぬふりをしている。
そしてこの青色サンバーとも、もうすぐお別れとなる。

 

おしゃれなフランス車と並べてみたり



写真生活を共に築いてきた大切な車なので、できればラップしてミイラのように永久保存しておきたい。
もちろんそんなことは不可能なので新しい車購入と同時に下取りとなる。
1万円での下取りとのこと。初代ベージュ色サンバーも確か同じ値段だった。

カメラを買い替えるときもそうだけれど、下取りでカメラを新しくすると
前のカメラの魂も新しいカメラにほんの少しだけ乗り移っていくように思えてくる。

新しい車はHondaになる予定だけれど(スバルサンバーはすでに生産終了していた)、
今まで18年間乗ってきたサンバー2台分の想いをHondaに乗せて、
これからもシャッター音を傍らに写真生活は続いてゆく。

ということで、この頃はビーチボーイズの『Little Hondaを車内でよく聴いている。
スバルサンバーで聴いていいのかなと思いながら。

 

ほんとにいい相棒だった。ありがとうサンバー

 

 

●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →