想いにふれる メイドイン

column

January 11, 2021

シャッター音を傍らに
scene14 【1月】 What A Wonderful World

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

霧氷の世界





【1
月】What A Wonderful World


昨年暮れのこと、
寒波がやってくるというので、久しぶりにくじゅうの雪景色を撮影に行った。

かつてくじゅうの山小屋で働いていた頃は、冬になるといやというほど雪景色を眺めていた。
朝はマイナス10度を下回り、冷蔵庫が温かく感じられる日々、
そして山々は当たり前のように白い頂を見せていた。

とりあえず撮影はしていたけれど、それはあまりにも日常的光景であったため、
それがどれほど貴重な光景なのか実感できていなかった。

福岡に戻り、あの冬の光景が遠い世界の出来事のように感じられるようになった今、
あの幻のような銀世界を再び写真に撮ってみたいと思うようになったのだ。

 

朝霧の向こうに雪のくじゅう

 

 

車のタイヤをスタッドレスに替え、分厚い手袋、アイゼンを新たに購入し、くじゅうへと向かった。
そして懐かしい三俣山が迎えてくれる長者原タデ原近くの宿をとった。

朝はマイナス3度、すごく寒い。
かつてはマイナス2~3度になると、温かくなったねえなどと話していたけれど、
あの頃の自分は一体どういう皮膚感覚をしていたのだろう。
福岡の冬は半そでで過ごしていた変なやつだ。
タデ原に雪はまったく積もっていなかったけれど、
雲に覆われた三俣山の頂には霧氷が見え隠れしていた。

この冷え込んだタデ原の散歩道、まだ雪は積もっていないけれど、
この淡い色に満ちた冬景色に身を置いているだけで、世界は救われるという気分になってくる。

シャッター音に交じって鹿の鳴き声が響いている。

 

大好きな散歩道へ

 

そして牧の戸峠へ。
道路は凍結状態だったけれど、スリップすることもなく到着。
すぐ近くに見える沓掛山は霧氷に覆われている。
この沓掛山が今回最も撮影したかった山。
くじゅう登山の方々にとってはスタート地点の通過する山というレベルだけれど、
この身近にそびえる山でじっくりと撮影してみたいとかねてから思っていた。

アイゼンを履いて登山道を出発。
5分も歩くと美しいデザインを施した霧氷の木々に囲まれた。

 

登山道はこんな木々に囲まれている

 

そして頂上ではきらと光る雪が舞っている。
雲の合間からやってきた光が周囲を輝かせている。

What A Wonderful World!

ルイ、アームストロングの曲を自然と口ずさんでいた。
あの曲に雪景色は登場しなかったかな。

 

沓掛山山頂より

山々が銀色に輝き始める

 


頂上でしばらく撮影したあと、ちょっとだけ足を延ばし
遠くに見えているカラマツの群生地へと向かった。
天気は吹雪いてきたけれど、それがこのカラマツの風景をよりダイナミックに演出している。

 

吹雪のカラマツへ

 

峠から反対側にそびえる黒岩山に登ったあとタデ原に戻ってきた。
夕暮れ時には天気も回復し、初雪観測という三俣山がうっすら夕暮れ色に染まり始めていた。
あの頃と何も変わらない風景がある。

世の中はとても面倒なことになってしまっているけれど、
いつまでも変わらない素晴らしい世界が目の前に現れた時、
何かしら希望を与えてくれるように思えるのだった。

What A Wonderful World

このような時代に写真ができることってこういうことなのかなと思いながら、
シャッター音を傍らに今日も撮り続けている。

 

三俣山が夕暮れ色に染まってゆく

 

 

●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →