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column

June 13, 2020

シャッター音を傍らに ~福岡⇔くじゅう白丹~
scene08 【6月】新たなるシャッター音とともに

福岡とくじゅう、時々その他…
街の中で自然にあこがれ、自然の中で街を想う
シャッター音が響くたびに、心が豊かになってゆく
そんな写真家が織り成すフォトエッセイ。
by kawakami shinya

福岡市西区「かなたけの里公園」で日の出を見た





【6月】新たなるシャッター音とともに


今年の春は、当然のことながらほとんど外出自粛生活を送っていた。

仕事のほとんどは延期か中止となり、天気がとてもよかったにもかかわらず
庭の濡れ縁に座り空を眺めたり、咲き始めた花を撮影したり、やってくる虫を眺めたりしていた。

当然くじゅう白丹にも行けていない。

世の中は大変な事態になっていたけれど、
庭を眺めている限りはとても穏やかな季節が世界を包み、
自分の立場の危うさまでも忘れさせてくれる。

おかげで庭に咲く花、やってくる昆虫や鳥、猫にも詳しくなった。

猫は近所の人たちからポンと呼ばれているけれど、
時々うちのベランダで夜を明かしていることを発見。

玄関前に置きっぱなしにしているサボテンは7年ぶりに開花。
どういうサイクルなのかなこれは。


ベランダにやってくる黒猫のポン

2013年以来の開花となったサボテン

 


夜は庭の向こうの空に見えるさそり座の動きを観察したり、
同じ航路を次々に飛んで行く飛行機の種類を調べたりなどなど。

多くは成田発中国成都行きの貨物機のようだ。
時々中国発アンカレジ行きもやってくる。

移動もままならない自分の頭上を
夜間飛行の瞬きが星の光と重なり合いながら飛び続けている。
そんな日常的なことがとても感動的な出来事のように思えてくる。

そして足元ではどくだみの花が光を発するように咲き始めている。
やがて朝焼けに染まるザクロの赤い花、近所の公園から望む日の出。

世界はやはり美しい。


 

暗闇の中でも光って見えるアジサイとどくだみの花

朝焼けの空に赤いザクロの花が輝く



ほんのちょっとだけ落ち着いてきた6月、新しいカメラを購入。
こんな時に購入していいものか迷ったけれど、
来るべき時のために準備をしておくこと、
そして再び風が吹き始めた時に帆をあげておくことが大事、と自分に言い聞かせながら購入。

考えてみればカメラを新しくする時はいつでも僕はピンチだ。
見方を変えればいつも新しいカメラと共にピンチを切り抜けてきたともいえる。

今回もきっとそうなるだろうと根拠のない確信を抱きながら、
徐々に再開し始めた取材でさっそく使用。

新たなるシャッター音は今までに比べると小さく、
手に伝わる振動は野イチゴを優しく摘み取るような繊細さ(うまく伝わらないでしょうけど)。
このなめらかなる音とこれから一緒に歩むことになる。


新しいシルバーボディのカメラのシャッター音はとてもなめらか


そしてほんの数日前のこと、
長崎県の大村公園での撮影が入り、2ヶ月ぶりくらいに県外へ。
朝の撮影ということだったけれど、前日の夜から出発(張り切りすぎだ!)。
’70~’80年代歌謡曲のCDをセットし、オレンジ色の街灯が続く都市高速入口へ。
もんた&ブラザーズの『ダンシングオールナイト』を大音量で聴きながらスピードを上げてゆく。
改めて聴くとものすごくかっこいい曲だ。

久保田早紀『異邦人』、あみん『待つわ』などなどが流れ、
太田裕美『木綿のハンカチーフ』でウルウルしてきた頃に長崎県の大村パーキングに到着。
周囲にはトラックが何台も止まっている。
このトラックのエンジン音がなぜかとても心地いい。
まるで子守唄のよう。
こんなふうに感じたこと今まであっただろうかと不思議に思いながらしばらく仮眠。

そして早朝4時半に目覚め出発。西の空に月が輝いている。
明けゆく大村湾を眺めながらのBGMはイルカの『なごり雪』。
あまり好きではなかったこの曲だけれど、流れゆく風景とリンクしてものすごくよかったのだ。
いろいろな場面で、今までと世界の感じ方がずいぶん変わってきたのではと思いながら車を走らせる。

夜明け前の大村公園、案の定早すぎた。
しばらく夜明け前の菖蒲園を撮影。



遠くに夜明けの月が沈んでゆく大村公園菖蒲園

 


撮影意欲が自然とわいてくる。
時間が過ぎるのも忘れてくる。
今までと大きく違っていたのはマスクが息苦しくなってくること。
帰りも通り過ぎてゆく風景を撮り続けた。

 

佐賀県国見峠付近にある国見湖遊歩道でしばらく休憩

佐賀県大和町の菖蒲園も満開になっていた

 

 

そして軽やかになったシャッター音を傍らに、ここ数か月のことを思い返していた。

思えばいろんな方から電話やメール、手紙までいただき
励まされたり応援してくれたりしていた。

人との距離がいろいろ言われる時代になってしまったけれど、そういう物理的な距離はともかく、
僕自身としてはいろんな人とかえって距離がとても縮まったように感じている。
人々に対しても世界に対しても、見方や感じ方がずいぶん変わってきたなという実感。

世界はまだまだ大変だけれど、
この時代だからこそ得ることができたであろうこの感覚を、
新たなるシャッター音とともにいつも傍らに抱いていこうと思っている。

 

先日は久しぶりの糸島で写真仲間とランチ。少しずつでも日常が戻ってくれれば。。



●写真・文/川上信也

■■プロフィール■■
●川上信也/フォトグラファー。1971年愛媛県松山市生まれ。
福岡大学建築学科卒業後、大分県くじゅうの法華院温泉山荘に1997年より5年間勤務。その間にくじゅうの風景写真、アジアの旅風景を撮り続ける。
その後福岡でプロ活動を開始し、様々な雑誌の撮影に関わり、風景のみならず、自然光を生かした人物、建築、料理など、様々な撮影を行なっている。
ライフワークとして九州の自然風景、身近な人々のポートレートを撮り続けており、定期的に写真集を出版、写真展やトークショーを開催している。
◎webサイト:『川上信也 Photographer』⇒ https://shinya27.wixsite.com/kawakami

■前シリーズ『くじゅうの麓、白丹のルスカ』(2018年5月~2019年4月)はコチラから →


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